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街から離れた山の中、木々に隠されるように密やかに建つその学び舎には天使と謳われる男子生徒が一人いた。
艶を放つ癖のない黒髪、どこをとっても計算され尽くしたように整った上品な目鼻立ち、きめ細かく白い肌の、柔らかに花が開くように笑う彼は、確かに、まるで暗い夜を静かに照らす月のごとく美しかった。
「月様……お口に、合いませんでしたか?」
「いいえ、まさか。ただ少し、食欲がないのです」
しかし今、その月は力なく微笑むことしかできなかった。
1年以上ともに仲間として過ごしてきたはずの友人たちを失った夜々斗は、深い悲しみと寂しさに苛まれていた。
────何が、いけなかったんだろう……。
少しでも力になれるように、考えて、やってきたつもりだったのに。
“ふんわりと笑って辺りを照らしていた月は今ではどんよりと厚い雲に遮られて、夜はどこまでも暗さを増していた
これ以上の暗闇はないと思うほどであったのに、やがて雨まで降り出して何もかもかき消す黒に閉じ込められてしまう”
────わからないけど、僕がいけないんだ。
何もかも自業自得なのに、原因もわからない僕のせいだ。
「月様、使ってください」
自らを慕ってくれる友人たちとの茶会の席で、菓子もほとんど食べず、楽しい会話もできずに泣きだしてしまった。それにも関わらず、優しくハンカチを差し出してくれる友人に、夜々斗は礼の言葉を伝えて無理矢理に浮かべた笑みを添えた。
あれから、毎日お茶会をしているが、毎度こうなってしまう。初めはわたわたと焦っていた友人たちも、もう流れるようにハンカチを渡してくれる。
こぼれた涙を拭うと、ふわりと甘く優しい香りが届いた。
「とても、いい香りがしますね」
「月様のお役に、ほんの少しでも、お役に立てればと思いまして。ゼラニウムの香りを少し……」
夜々斗の言葉に少し安堵した様子だった友人は、顔を赤らめながら必死に香りの正体を伝えた。
こんなにも情けない自分を優しく気遣ってくれる友人たちに囲まれて、こんなに幸せな者は他にいないのだと、思わなければいけないのに。この寂しい気持ちは一向になくならない。薄れる気配すらなく、ずっと自分にまとわりついて離れない。
払いのけようとあちらからも、こちらからも、風が吹いているのに、次から次にしつこく月を覆い続ける雲のようだ。
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