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優樹の家で目を覚してから3日、実家を出てから6日目にやっと夜々斗はベッドから出ることを許された。
もし体調が悪くなったら遠慮せずに言うようにと優樹から何度も何度も言い聞かされたあとに、今日は家の中で人生ゲームをすることになった。
初めて優樹の家に来た時に、雨の日にできる目の疲れない遊びを佐良家の家政婦さんに聞いて買ってきたものだ。
ルーレットを回して出た数字次第で職についたり、給料や臨時収入をもらって家を買ったり、保険に入ったり、結婚して子供を産んだり、借金を抱えて財産を売ったりと、確かに人生を遊ぶゲームである。2人で遊んでも意外と楽しめるもので、外出しない時によくする恒例の遊びとなった。
「夜から回していいぞ」
「じゃあ遠慮なく」
毎回それぞれが使っている色の駒をスタート位置に置いて、タイマーをセットしてから夜々斗がルーレットに手を伸ばす。
ルーレットとはいっても何度も繰り返し遊んでいれば出したい数字に止められるようになってくる。
だから相手がルーレットを回す瞬間の集中をいかに乱させるかが大事になる。つまり心理戦のゲームである。
そこでいくつかルールを決めてある。タイマーを30秒でセットし、音が鳴ったタイミングでルーレットを回さなければならない。耳を塞いだり、30秒たつ前に回してしまうとスタートからやり直しとなる。
スタート地点で出すべき数字は5。散歩の途中で財布を拾い、お礼に30,000円を貰わなければならない。
「そう言えば、夜、寝言言ってたな」
「寝言? 何て?」
ルーレットから手は離さずに左に右に回しながら優樹の話を聞く。
「優樹、って俺の名前言ってた。そんなに俺に会いたかった?」
優樹が夜々斗をからかうようににやりと笑って視線を合わせてくる。
ここでピピピッと30秒が経過したことを知らせる音が鳴った。
夜々斗は無事に5を出し、手持ちを30,000円増やした。またタイマーをセットする。今度は優樹の番だ。
「やっぱり寝言じゃ弱かったかー」
「うーん。というよりは、寝言を言ってたとしたら優樹を呼んでたんだろうと思ってたからね」
「え、そうなの?」
「そうだよ。だって僕はずっと優樹に会いたいと思ってたから」
「……あ、そっか、寝言で呼ぶくらいだもんな?」
「そうだよ? 寝てる時も会いたがってたんだよ?」
ピピピッ
ずるいだろう、と優樹はこのゲームをする度に思わされる。
相手は恋愛的な意味で言っていないにしても、こんな風に好きな人から好意を直接的に伝えられては動揺するなという方が無理なものだ。
それでもこんなに可愛らしいことを言ってもらえるのは嬉しいに決まっているから、負けてばかりの人生ゲームがやめられないでいる。しかも、いつも以上に咲きこぼれんばかりの楽しそうな笑顔が見られて、なんとも心に響くのである。
それに、たまに夜々斗を動揺させられた時のあの手応えは、満たされた気持ちになってそれは心地いいものだ。
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