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「あのな、夜の方がはるかに可愛いからな」
「そうかなあ、僕は優樹が可愛いと思うけどなあ」
「った、例えば!」
「例えば?」
「例えば、お粥をあーんしたときの夜は小動物的な可愛さもあったりしてたからな」
「あーんって、言い方可愛いね」
「なっ!?」
ピピピッ
何故か優樹の方が動揺し、夜々斗は狙い通りの数字を出して、家の倉庫から名のある刀を見つけて財産にした。
照れを誤魔化すように、優樹は少し大きめの声で会話を進める。
「はい、優樹の番だよ」
「だってあれは、間違いなくあーんだっただろう!」
「そうだねえ、手ずから食べさせてもらうなんて何年ぶりだったかな」
「普通、食べる方が恥ずかしがるものじゃないのか……?」
「うーん、優樹相手だったから恥ずかしいより嬉しいかな」
「!!」
ピピピッ
「4……」
「まぁそんなに悪くないよ」
「そうだな」
優樹の駒は4マス進んで、部屋を片付けたら気分がすっきりした。
「夜、嬉しいってどういう意味?」
「どういうって、優樹が僕のために甲斐甲斐しくご飯を食べさせてくれるんだから、大事に思ってくれてるんだなあって嬉しくなるでしょ?」
「なるほど、確かに夜のことは特別だしな」
「ふふふ、ありがとう」
ピピピッ
夜々斗からの素直で可愛い言葉に翻弄されながらも、何とか夜々斗も動揺させられないかと言葉を尽くした優樹は、しかし惨敗してしまった。
────色んな意味で負けた……。
人生ゲームの勝負に負け、結局一度も夜々斗を照れさせることができずに終わり、むしろ自分が言われた言葉に恥ずかしさが募って顔を上げられずにいる。
極めつけにそんな優樹の頭を夜々斗が撫でている。
「やめてくれー、余計に復活できなくなる」
「優樹は照れ屋さんだね」
優樹の声が聞こえていながら取り合わずに撫で続けてくる夜々斗に、優樹の内心は落ち着きを取り戻すどころか余計に羞恥が湧き上がる。
「思ってること言っただけなんだけどなあ」
たまに言われることがある内容が多かったが、このゲームをするといつもは優樹の羞恥の限界を考えてかなり早めに話題を変えてくれていたことがわかる。
夜々斗と一緒にいると周りへの気遣いに気付かされてばかりで、こうまで優しい存在に眩しさを感じずにはいられない。
そして一層夜々斗への想いを深めることになる。この想いを抱える誰もが、そうなのだ。
この眩しさの前には誰もが等しく無力で、だからこそ共感とともにある種の諦めを覚えてしまう。
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