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優樹と夜々斗の二人で人生ゲームをしたり、夏休みの宿題を進めたりして数日が経った。
夜々斗の体調も回復し、優樹本人と優樹の親戚の医師から外出をしてもいいと許可が出たため、水族館に遊びに行くことにした。
「やっぱりカワウソのところが見たいなあ」
「飽きないな」
「普段可愛いのにご飯食べる時にはああなるの、ギャップが面白いでしょ?」
学園にある小さな水族館と違って、魚はもちろんイルカやペンギンやカワウソもいる大きな水族館に夜々斗の心は浮き立っている。佐良家の車で海沿いにあるその水族館まで送ってもらうところだが、スマートフォンでカワウソの餌やりの時間を確認している。
「ご飯タイムが12時半と16時からだって」
「今、11時過ぎだから、着いたらまずカワウソのとこに行くか」
「いいの? ありがとう」
カワウソのご飯タイムを見たいと顔に書いてある夜々斗を見て、優樹がそれに応えると普段よりも無邪気で楽しそうな笑顔が咲いた。
「ご飯タイムが終わったら僕達もお昼にしようか」
「そうだな」
再び、楽しみだなぁ、と憂いの全くない笑みを浮かべる夜々斗に優樹は眩しそうに目を細めた。
優樹の家で大人しく宿題をしたり、ゲームをしたりしたのももちろん悪くなかったが、これほど夜々斗が喜んでくれるのなら外に遊びに行く機会を多めにしよう、と決めた。
それに、優樹自身も夜々斗との外出を楽しみに待っていた。
────2人で水族館に行くなんて、デートみたいだ。
普通なら、学園外の水族館で男子高校生2人が並んだところでデートだとは思われないかもしれないが、夜々斗は顔立ちも体格も中性的だ。
制服のときならいざしらず、ユニセックスな私服を好む夜々斗は優樹と並ぶと比較的身長も小さく華奢で、カップルにも見えるだろう。
「迷子にならないようにな」
「大丈夫、ずっと優樹の隣にいるから」
子供じゃないと反論してくるかと思いきや、恥ずかしげもなくそう宣言されて、優樹は咄嗟に言葉が出せなかった。
「……うん、そうしてくれ」
随分と気分がいいらしい夜々斗は、こんな可愛らしい言動が1日続くのだろうか。
この調子なら周りの誰もが恋人同士だと感じそうなものだ。
そう考えると優樹もこの後の時間に期待が膨らむのを抑えられなかった。
しかし同時に心配でもある。
「変な虫に声かけられないか心配だな」
「変な虫? 男ですって言えば大体大人しくなるよ」
「まあそうなんだけどな……」
その大体に当てはまらない人間も一定数いるのだ。それこそ学園ではそんな人達に囲まれていながら、夜々斗は少し無防備なところがあった。
そもそも、夜々斗の天使と謳われるほどの美貌と雰囲気のおかげで恋愛において性別にとらわれなくなった男子高校生はかなりの数がいるのだ。過去最大規模の親衛隊ができていたのは伊達ではない。
つまり、一目惚れした虫が勢い余ってバイになってもおかしくない。
学園外だからといって優樹が気を抜くことはできないのである。
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