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佐良家まであと30分ほどの位置を進む車内で、夜々斗はチョコちゃんのぬいぐるみを抱きかかえたまま眠ってしまっていた。
優樹は運転手から受け取ったブランケットをそっと夜々斗にかけた。
────やっぱ疲れたよな
ことさら丁寧に運転されているおかげで揺れは小さく、支えたりしなくても姿勢は安定しているらしい。
けれど優樹はあえて肩を貸すことにした。左肩にずっしりとかかる重みにこっそり笑みを浮かべた。
「ん、…ゅ……き……」
名前を呼ばれて起こしてしまったかと視線をやったが、夜々斗の瞼は変わらず閉じられていた。
────また寝言で俺を呼んだ……
じわじわと体温が上昇する感覚に、夜々斗を起こさないようにゆっくりと右腕を動かして手のひらで顔を覆った。
──今日は夜に翻弄されっぱなしだ
でも、暁といたら、暁を呼ぶんだろうか、と気障ったらしく夜々斗にアプローチしてくる男が思い浮かんだ。
先程の盗撮男の件を思い起こす。
あの時も、俺と来ていたから呼んだだけなのか。
そう考えると胸がどんよりと重く感じられる。
──嫉妬だなぁ、これは
夜が誰かを選ぶとしたら、それはもしかしたら暁かもしれない。
学園の中で夜のことを真剣に想っている人などそれこそ両手の指を使っても到底数え切れないほどいるけれど、その中でも夜々斗が夏休みにまで会おうとする暁は、やはり幾分特別な位置にいるのではないだろうか。
実際に暁は過去に夜々斗がトラブルにあったときに助けたという実績もあるし、いざという時に助けを求められる頼りになる先輩というイメージは間違いなく持っているだろう。
そういう相手に人はときめきやすいのではないか。
夜々斗が誰かにときめくなんてあの家族の問題を解決しないことには無理だろうけど。
しかし暁は、1人でも夜々斗の護衛を任せられる唯一の存在と言っていい。
夜々斗の気持ちを推し量るのも上手いし、夜々斗を傷つけるようなことはしないし、仮に血迷った素人が暴れるなんてことがあっても簡単に抑え込めるくらいの腕がある。
相手が暁でなければ何がなんでも同行すると言い張って、優樹が自分自身で夜々斗を守っていた。優樹も素人相手にそうそう遅れを取るほど弱くはないのだ。
考えるほどに暁は憎らしいくらいにハイスペックな男だ。極めつけに顔がいい。人望もある。
──それでも、夜をそう簡単に渡したりはできない。
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