第三幕.扉は開かれたまま

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 寝室の扉は、開かれたままだ。外はダイニングへ繋がっており、ふわりとコーヒーの香りが漂って来た。  誘われるように悦地はフローリングの床へ足を下ろし、そちらへ歩く。  案の定、そこに愉本は居た。  ダイニングの中央、テーブルの上に行儀悪く尻を乗せた愉本が、コーヒーカップを口に付けている。すでに服を着ており、艶めかしい肢体は拝めなかった。化粧はまだしていないが、それでも彼女の横顔は女優顔負けの美貌を見せ付ける。  背中まで届く茶色い長髪には寝癖も見られたが、それもまたアクセントになっていて美しい。髪が窓から射し込む光を浴びて煌めくたび、幻想的な女神像に感嘆した。 (女神……いやァ、とんでもない。彼女は小悪魔、サキュバスなんだよねェ)  悦地はかぶりを振って、誘惑を払いのけた。  すっかり魅了される所だった。彼女はサキュバスだ。男を虜にする魔性の淫魔。欠伸を噛み殺す仕草すら愛くるしい。  などと見とれていると、愉本もこちらに気付いたのか、ゆっくりと首を巡らせた。 「おはよ~、エッチ休憩クン?」 「おはよォ……って、その呼び名はやめてくれないかィ? 確かにボクは悦地憩……字間に『休』を入れれば『エッチ休憩』に聞こえるけどさァ」
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