第三幕.扉は開かれたまま

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第三幕.扉は開かれたまま

   1.  窓の外で、スズメが鳴いている。  もう朝か……悦地(えつじ)(けい)は素っ裸で寝ていたダブルベッドから緩慢に上体を起こした。  3LDKのマンションである。ここはその寝室。  彼の住む家であり、勤務地である警察総合庁舎まで地下鉄で一本という好立地だ。  一人で寝るには広すぎるダブルベッドには、言うまでもなく彼以外のぬくもりがまだ残っていた。  セックス・フレンド。  同じ職場に勤める同僚の女――愉本(ゆもと)華恋(かれん)。  同年代かつ同門出身という境遇と、ともに盛りの付いた性衝動(リビドー)がこらえきれない体質もあってか、しばしば同衾することが多かった。  恋愛感情は曖昧だ。嫌いではないが、明確に意識はしていない。性行為するくらいだから一定の好意は抱いているものの、所詮は性の捌け口でしかないとも思う。  割り切った仲であり、友人であり、同胞。  それは愉本の方も承知した上で付き合っているはずだ。  今、その彼女が見当たらない。
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