第二幕.倒叙コンプレックス

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第二幕.倒叙コンプレックス

   0.犯人の独白――倒叙(とうじょ)―― (私には、殺したい奴が居る。この手に今、拳銃を持っている)  私は右手に携えた得物の重みを、誰よりも感じている。  ベレッタ92。92FS Vertec。  グリップにレーザーサイトを搭載した自動式拳銃だ。私たち第一特殊犯罪捜査課・特殊犯捜査第一係に貸し与えられる標準的な武器。  警視庁刑事部の中でもことさらやっかいな誘拐・立てこもり・ハイジャックなどを鎮圧する部隊に、私は所属している。  通称SIT。  本来なら今日は非番だったが、急な出動命令に借り出された。よほど切羽詰まった事件らしい。私はせいぜい防弾ベストを着込み、防刃フードを頭にかぶって現場に臨んだ。  雑居ビルを取り囲むSITの精鋭『突入班』は、もっと重装備だ。防弾ベストとヘルメットの他にアサルトスーツで身を包み、腰には閃光弾だの発煙筒だのも携帯している。  極め付けは、物々しい盾を前面に構えてずらりと並んだ壮観な光景だ。  見た目から機動隊のSATと間違われやすいが、微妙に違う。犯人を『生きたまま確保する』のが我々SITだ。銃器を使用する場合も、射殺しないよう念を押されている。
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