1人が本棚に入れています
本棚に追加
その人が初めてこの部屋に来た日。
俺がどれだけ驚いていたかなんて、きっと君は知らないだろう。
君と俺以外の人がこの部屋にいるところなんて、想像したこともなかった。
でも、もっと驚いたことは。
君がその人に向けて見せている顔は、俺が今まで見たことのない君の顔だった。
君はそんなに優しく、嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに笑うのか。
そのあとも何度かその人はここを訪れて、君はその度に見たことのない顔をして。
そして気付いた。
君を一番幸せにできるのは、俺じゃないってことに。
俺は君がいてくれるだけで十分だった。
君がいてくれるだけでよかったのに、君はそうじゃなかった。
その人を選んだということは、俺はもう必要ないということで。
ここを追い出されるのだろうか。
また暗くて冷たい世界をさまようことになるのだろうか。
しかし相変わらず、君は優しい声で俺を呼んで、温かい手を差し伸べてくれるから。
一番近くで、君を見守る道を選んだ。
世界で一番大切な君が選んだ、君の大切な人だから。
俺も受け入れていこうと決めた。
たまに触れられて伝わってくるその人の体温も、確かに温かかったけれど。
必要以上になれ合わないのは、俺のせめてもの抵抗だった。
こうして三回目の春は、少し苦い思い出の春となってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!