あき

4/7
前へ
/8ページ
次へ
笑顔の絶えない日々が続いた。 君を笑顔にしているのが俺じゃないと思うと、やっぱり少し悔しいけれど。 幸せそうに笑う君を見て、俺も幸せな気持ちになれるのは変わらなかった。 季節は一巡りして、もうすぐまた彩り豊かな春がやってくる。 いろんな命が芽吹きはじめる道を、君と二人で歩けることを楽しみにしていたのに。 どうしてこうも、同じ季節は二度とやってこないのだろう。 「ただいま・・・」 いつもより遅い時間に帰ってきた君は、ずいぶんと暗い声を落とした。 心配になっていつものように傍に寄り添って、でもずっと口数の少ないままで。 そんな日が何日か続いたかと思えば、急に大きな声で話し始めたりして。 完全に空元気だった。 無理をしているのは見え見えだった。 「大丈夫だよ」と言いながら笑った顔はぎこちなく、手は少し震えている。 いつも流れ込むように伝わってくる優しい温もりも感じられなかった。 やがて無理に笑うことすらなくなって、まるで色を失ってしまったみたいで。 この部屋にこれまでのような明かりが灯ることがなくなってしまった。 どうしてこうなったのか、初めはわからなかったけれど。 今まであんなに幸せそうにしていた理由を考えたら、答えはすぐに出た。 いつから、あの人はこの部屋に来なくなったんだろう。 大切にしてくれるんだと思っていた。 俺の世界で一番大切な人を、あの人が一番幸せにしてくれるんだと思っていた。 君は時々、何かに向かって見えない誰かと話をしていて。 心臓を握られているような、ひどく苦しい顔をしていた。 きっとその見えない誰かが、あの人だったんだろう。 あんな顔をさせたかったわけじゃない。 こんなに悲しませたかったわけじゃない。 過ぎてしまったことをいくら思っても仕方ないけれど。 やり場のない怒りや後悔ばかりが湧いてくる。 そして君にも、いよいよ限界が来てしまった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加