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これで一件落着、とそんな簡単にいくはずもなく。
笑い方を忘れてしまったらしい君は、俺の知っている君ではなくなってしまった。
ふと、思い出したことがある。初めて君に出会ったときのことだ。
静かに木の根元で涙を流していた君は、この間の君とそっくりだった。
きっとこの間と同じように、あの時もたくさん傷ついた後だったんだろう。
傷ついてばかりの心が疲弊して、少し回復に時間がかかっているのかもしれない。
そう思うと余計に自分の無力さに腹が立って、情けなくて。
大切なものを抱きしめたい、守りたい気持ちが強くなるばかりだった。
願ったってどうしようもないことはある。
それでも、願わずにはいられなかった。
毎夜、形を変えて夜空に浮かぶ月に。無数に輝く星たちに。
燦々と地上を照らす太陽に。道端に咲く色とりどりの花たちに。
散歩の途中で通る、石畳の続く中にあるその建物は、とても不思議な空気をまとっていて。
そこを通るときは、より強く何度も願った。
君を抱きしめられる腕が欲しい。気持ちを伝えられる言葉が欲しい。
一生のお願いだ、もう他に何もいらないから。
世界で一番大切な人を、今度こそ俺が守っていきたい。
そのための力をください。
そう強く、何度も、ありとあらゆるものに願った。
しかし俺の願いは、嵐を起こすことより難しいらしい。
一向に変化が起こることはなく、君も相変わらずだった。
一体どれくらい君の笑顔を見ていないのか、わからなくなるくらいだった。
「おはよう」と朝の日差しみたいに笑った顔が好きだった。
「ただいま」と少し疲れた顔が、俺を見つけると表情が和らぐのが好きだった。
イタズラをすると「こらっ!」と少しくちびるを尖らせて怒るのが好きだった。
鼻歌を歌いながら洗濯物を干すところも。
テレビを見ながら何か楽しそうに話しかけてくれるところも。
全部が大好きで、全部大切だった。
取り戻したいんだ、あの頃の君を。
屈託なく笑ってくれていたあの頃の君を。
だからどうか、どうか・・・。
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