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四回目の秋の入り口は、もうすぐそこまで来ていた。
未だ願うことしか出来ない自分が歯がゆくて、もどかしくて。
でも絶対に君の傍を離れなかったし、願うことをやめなかった。
君が息を潜めるみたいに過ごす日々も変わらなかったけれど。
まだ辺りは薄暗く、いつもよりずっと早い時間だった。
急に身支度をはじめた君が心配で、足元に寄り添って。
「散歩じゃないよ」
と一度は背を向けられてしまったけれど。
玄関先までついて行けば、君はドアを開けたまま待ってくれていた。
光のない街は冷たく静かで、ついこの間まで暑さにやられていたのが嘘のようだった。
ゆっくりとした足どりで歩く君の後ろを、俺もゆっくりと続いた。
ふいに君が足を止めた場所は、たまに通る川沿いの道で。
昼間に通れば水面がキラキラと輝いていて、夕方には綺麗なオレンジ色に染まる場所。
でも今はそのどちらでもなく、この静けさが少し不気味に思えるほどだった。
手すりを掴んだ君は何を考えているのか、そこに立ったまま動かなくなった。
少しずつ辺りが明るくなり始めて、かなりの時間そうしていたことに気付いて。
風邪を引いてしまうんじゃないかと心配になって君を見上げると。
朝焼けに照らされた君の瞳は、いつか見たうつろな瞳をしていて。
俺の心臓は大きく脈打った。
朝焼けと一緒に溶けてなくなってしまうような気がした。
君がいなくなってしまうような、大きな不安に駆られた。
待って、俺を置いていかないで。
いなくなったりしないで、消えたりしないで。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
最後、やけに声が響いた気がして。
ギュッとつむったままだった目を開けると、視界が一変していた。
目の前にいる君が俺を見上げている。
ついさっきまで、俺が君を見上げていたはずなのに。
朝焼けに照らされたままの君は、ちゃんと目の前にいて。
その瞳は、真っ直ぐに俺を見てくれていた。
まだ何もわからなくて、でも自然と体は動いた。
俺の両腕が、目の前の君を抱きしめていた。
「あぁ、やっと・・・やっとだ」
俺の願いが、どこかの誰かに届いたらしい。
腕の中にある体温は、間違いなく今までもずっと近くにあった君のもの。
これで、悲しいと泣く君を、苦しいと震える君をすぐに抱きしめてあげられる。
君を傷つけるすべてから、いつだって俺が守ってあげる。
それでも君が寂しいと泣いてしまうなら、何度だって伝えよう。
「はる、俺ね・・・」
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