はる

1/1
前へ
/8ページ
次へ

はる

目の前にいきなり、知らない男の人が現れた。 驚いている間に伸びてきた腕に抱き寄せられて、一瞬体は強ばったけれど。 包まれた体温を、私は知っていた。 でもそんなはずがないんだ。 今私を抱きしめている人とその体温の持ち主は、似ても似つかない。 なのに、心は安心している。 それなりに時間が経ってもどこか沈んだままだった心が、温められている。 この温かさを知っている。 ずっと傍にあったじゃないか。 気付けばいつもどんな時でも、私から離れることはなかったんだから。 「あき・・・?」 私の首元に埋めた顔を上げて、その人は笑った。 まるで大きな尻尾を勢いよく振っているようで、私もつられて笑ってしまった。 そして確信した、この人はあきだ。 なんで人の姿になったのかとか、なんで話せるのかとか。 聞きたいことは山ほどあるけれど。 そっと手を回して触れた背中は、随分と冷えていた。 私が付き合わせてしまったせいだ。いつもそうだった。 いつもあきは、嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれた。 だから今は。 「はる、俺ね・・・」 自分の声を確かめるみたいに、ゆっくりと話しはじめたあきの話を最後まで聞こう。 いつも、あきがそうしてくれていたように。 そして冷えてしまったあきの体を、今度は私が温めてあげよう。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加