1人が本棚に入れています
本棚に追加
はる
目の前にいきなり、知らない男の人が現れた。
驚いている間に伸びてきた腕に抱き寄せられて、一瞬体は強ばったけれど。
包まれた体温を、私は知っていた。
でもそんなはずがないんだ。
今私を抱きしめている人とその体温の持ち主は、似ても似つかない。
なのに、心は安心している。
それなりに時間が経ってもどこか沈んだままだった心が、温められている。
この温かさを知っている。
ずっと傍にあったじゃないか。
気付けばいつもどんな時でも、私から離れることはなかったんだから。
「あき・・・?」
私の首元に埋めた顔を上げて、その人は笑った。
まるで大きな尻尾を勢いよく振っているようで、私もつられて笑ってしまった。
そして確信した、この人はあきだ。
なんで人の姿になったのかとか、なんで話せるのかとか。
聞きたいことは山ほどあるけれど。
そっと手を回して触れた背中は、随分と冷えていた。
私が付き合わせてしまったせいだ。いつもそうだった。
いつもあきは、嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれた。
だから今は。
「はる、俺ね・・・」
自分の声を確かめるみたいに、ゆっくりと話しはじめたあきの話を最後まで聞こう。
いつも、あきがそうしてくれていたように。
そして冷えてしまったあきの体を、今度は私が温めてあげよう。
最初のコメントを投稿しよう!