#01 蒼き月の下で

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「分かったわ……だって、あなたと私の仲じゃない…困ったときはお互い様よねぇ。」 「チッ……“計画”のためにも、ここで捕まるわけにはいかないって!」 ヒューガと名乗った男は弓から黒い炎の矢を放ち、その場から去っていった。 俺には空を飛ぶ手段がない以上、これ以上の追撃は不可能だ。仕方なく、本部へ帰ろうとしたが…… 「ウォルフレッド、もう帰っちゃうの?久しぶりに会ったのに飲まずに行っちゃうの?たまには私と夜を明かしましょうよ。」 「気持ちはうれしいよ、ルージュ。だが、俺には次の任が待っている。そういうわけにはいかないのさ。」 「冗談よ……でも、少し見てほしいものがあるのは本当よ。あなたも驚くと思うわ。まだ次の任までは時間があるのでしょう?」 ……相変わらず、女に弱い癖は治る気配がないな。 「分かった、お前も確か〈影の輝石〉の支部のメンバーだったしな。案内してくれ……だが、そのまま飲みに行く約束はなしだぞ、いいな?」 「ありがとう、ウォルフレッド。相変わらずあなたは優しいのね。」 「俺の気を引こうというつもりか?」 「もう、違うわよ!純粋に誉めただけよ!」 ―研究施設跡地― ………この場所は、俺たちのギルドで知らぬ者がいない。“負の遺産”…〈人形少女(ドール)〉を研究・製造していた場所だ。 「なぜここに俺を……あっ、あなたはっ!」 俺の目の前にいたのは〈影の輝石〉の支部組織〈呪血の薔薇(ブラッディローズ)〉のマスター・クロミア様だった。 「ここまで誘導お疲れ様、ルージュ。……久しぶりね、ウォル。あれからまた背が伸びたんじゃないかしら?」 「なぜあなたのような方がこんな所に足を運んだんだ?なぜ俺を呼んだ?」 「んもぅ、つれない子ね……あなたに依頼したいことがあるのよ。こっちに来て。」 クロミア様に連れられ、案内された先で俺が見たのは……まだ一機だけ稼働しているカプセルと、そこで静かに眠る一人の少女だった。 そう……全て生命活動を停止したはずの人形少女だった。
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