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しばらくして、あの子は帰ってきた。
「ただいま~
あ~疲れた~」
と言って帰ってきたあの子の手には、サンキョウ高等学校と書かれた、フルートケースが握られていた。
きっと、学校の楽器の備品を借りてきたのだろう。
「もう、いやんなっちゃうよね。みんなすごく上手いんだもん。」
とぶつぶつ言っている。
「あ、焔さん?
いらっしゃい。
どうしたの?」
と、あの子は屈託のない声で言った。
「あ、いえ、あの、
そう、えっと、駅前のね、お菓子やさんでお菓子買ったの。だから、藤井さんにどうかなって思って・・」
しどろもどろになって言う私に対して、またしても屈託のない様子で、
「え?ほんと?
キャンディドロップスの?
マジうれしい♪
焔さん、ありがとう。」
と言った。
この子はなんて可愛く笑うんだろうか。
「ねぇ、焔さん、私ね、吹奏楽部に入ったんだけど、ほとんどの人が中学1年生の時から楽器やってるから、本当に上手くってね。私ね、もうほんと付いてくのがやっとでね。」
少し溜めてから、藤井さんは続けた。
「でも、上手くなりたいんだよね。だからさ、音楽レベルの高い焔さんとお話ししたかったんだよね。」
私は取り越し苦労をしていたのか。
目の前にいる藤井さんは、私に対して怒っているどころか、むしろフレンドリーだ。
「そうねぇ、好きって言う気持ちを大切にして、後は努力しかないよ。それにね、藤井さんの音楽は藤井さんにしかできない。」
と、なるべく丁寧に藤井さんに伝えた。
藤井さんは目をキラキラさせて、
「そうよね!
うん、ガンバる!」
それから、少し遠慮ぎみに、
「ねぇ、焔さん、私たち同い年だし、それに、同じエルフェンマスターだから、これから焔さんの事を、チカちゃんて呼んでいい?」
なんて、願ってもない嬉しい提案を藤井さんの方からしてくれた。
「ええ!
もちろん!
私も、ミハルちゃんて呼んでいい?」
藤井さんは
「もちろん!」
と言って、満面の笑顔で私に答えてくれた。
「でさ、ちょっとチカちゃん聞いて。
ルナったら、今朝私がフルートが上手くならないことについて相談したらね、何て言ったと思う?
美晴ははねっ返りだから上手くならないんだよ。
ですって!!
もう私、頭に来て、今日一日は、自宅謹慎を言い渡したんだよ。」
と言っていた。
ミハルちゃんは、怒りながらも、少し嬉しそうだった。
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