第1話:焔千夏の気がかり。

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しばらくして、あの子は帰ってきた。 「ただいま~ あ~疲れた~」 と言って帰ってきたあの子の手には、サンキョウ高等学校と書かれた、フルートケースが握られていた。 きっと、学校の楽器の備品を借りてきたのだろう。 「もう、いやんなっちゃうよね。みんなすごく上手いんだもん。」 とぶつぶつ言っている。 「あ、(ほむら)さん? いらっしゃい。 どうしたの?」 と、あの子は屈託のない声で言った。 「あ、いえ、あの、 そう、えっと、駅前のね、お菓子やさんでお菓子買ったの。だから、藤井さんにどうかなって思って・・」 しどろもどろになって言う私に対して、またしても屈託のない様子で、 「え?ほんと? キャンディドロップスの? マジうれしい♪ 焔さん、ありがとう。」 と言った。 この子はなんて可愛く笑うんだろうか。 「ねぇ、焔さん、私ね、吹奏楽部に入ったんだけど、ほとんどの人が中学1年生の時から楽器やってるから、本当に上手くってね。私ね、もうほんと付いてくのがやっとでね。」 少し溜めてから、藤井さんは続けた。 「でも、上手くなりたいんだよね。だからさ、音楽レベルの高い焔さんとお話ししたかったんだよね。」 私は取り越し苦労をしていたのか。 目の前にいる藤井さんは、私に対して怒っているどころか、むしろフレンドリーだ。 「そうねぇ、好きって言う気持ちを大切にして、後は努力しかないよ。それにね、藤井さんの音楽は藤井さんにしかできない。」 と、なるべく丁寧に藤井さんに伝えた。 藤井さんは目をキラキラさせて、 「そうよね! うん、ガンバる!」 それから、少し遠慮ぎみに、 「ねぇ、焔さん、私たち同い年だし、それに、同じエルフェンマスターだから、これから焔さんの事を、チカちゃんて呼んでいい?」 なんて、願ってもない嬉しい提案を藤井さんの方からしてくれた。 「ええ! もちろん! 私も、ミハルちゃんて呼んでいい?」 藤井さんは 「もちろん!」 と言って、満面の笑顔で私に答えてくれた。 「でさ、ちょっとチカちゃん聞いて。 ルナったら、今朝私がフルートが上手くならないことについて相談したらね、何て言ったと思う? 美晴ははねっ返りだから上手くならないんだよ。 ですって!! もう私、頭に来て、今日一日は、自宅謹慎を言い渡したんだよ。」 と言っていた。 ミハルちゃんは、怒りながらも、少し嬉しそうだった。
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