第1話:焔千夏の気がかり。

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それほど大きくはない店舗のせいもあってか、お客さんたちが長い列を作っていた。 あまりの人気ぶりに気後れしたが、ちょっと流行に乗ってやろうと言う思いもあって、列に並んだ。 気がつくと、もう日が暮れそうになっている。 ようやく店舗に入った頃には、生菓子はすべて売り切れていた。 それでも、 「いらっしゃいませ♪」 と、店員さんは快く私を出迎えてくれた。 若干舌ったらずな言い方で出迎えてくれた店員さんは、私と同い年くらいの女の子だった。 ・・なんてかわいいんだ。 ケーキ屋さんの制服なんだろうか。 水色のスカートに白のドレスシャツと白のエプロン。 そして、小柄で小顔だ。 声は仔猫がミャウミャウ言っているようだ。 なんなんだ、このかわいさ。 まるで不思議の国のアリスに登場するアリスそのものだ。 おんなじ女子なのに、私とのこの子のこの違いはなんなんだ。  神官の娘らしく、地域に貢献しろと親から厳しく言われて育った私には、神官の娘らしい服装と立ち振舞いを仕込まれてきた。 衣服は、母が指定した母の好みのもので、父が娘に求める立ち振舞いにかなったものだ。 だから、街を出歩いても、衣服に関してはウインドウショッピングオンリーだ。 私の服装は地味だ。 それは仕方のないこととわかっている。 しかし、こうも映像的なギャップがあると、心理的なダメージがすごい。 私はいたたまれなくなって、仕方なくクッキーやらの焼き菓子のセットを買って、それをプレゼント用にしてもらった。
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