第1話:焔千夏の気がかり。

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 それから、またしばらく歩いた。 こんなことなら自転車に乗ってくるべきだった。 住所は、少し前にサラに調べておいてもらっておいたから、場所はすぐにわかった。 目的地に着いたところで、深く息をして、胸のドキドキをどうにか少し落ち着ける。 表札には 『藤井』 とあった。 時計を見ると、午後8時。もうすっかり夜だ。 とりあえず、キャンディドロップスで買ったこの焼き菓子だけでも渡して帰ろう。 おそるおそるドアベルを鳴らす。 「は~い」 とインターホン越しに言ったのは、私の母親と同じ歳くらいの女性の声だ。 「あ、あの、わたし、ほむらちかって言います。 夜遅くにすません。 あの、 美晴さんいらっしゃいますか?」 「あら、美晴のお友達? まだ帰ってきてないのよ。 最近は部活が忙しいらしくってね。」 そういえば、あの子は高校2年になって、吹奏楽部に入ったことを思い出した。 仕方がない。 お土産をあの子のお母さんに渡して、今日は帰ろう。 ・・そう思っていたのだけど・・
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