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「あ、風船」
誰かが、何ごともないかのように言う。空をたまたま見上げたら、真っ赤な風船がふわり、ふわりと風にのって吹いている。
別に珍しい光景ではない。たまに見かける程度の光景だ。
その人は、風船をしばらく目で追いかけたあと、何もなかったかのように、駅へと歩いて行った。
普通に切符を買って、普通に改札口をくぐって、普通に駅ホームで電車を待っていた。
暇だからと、スマホを取り出しゲームをする。しばらくすると、駅のアナウンスが鳴り出した。
『まもなく、4番線に列車が到着します。白線の内側にてお待ちください』
無機質なアナウンスが流れ、その人はスマホをポケットにしまう。すると、ふと、空を見上げると、赤い風船が流れていた。
さっきの風船だーーと、直感的に思った。
何を思ったのか、その人は目の前に浮かぶ風船をとろうと白線から出ていたのだ。
ホームにいる人たちは、早く上がれ! と呼びかけるもその人は上がらず、目に見える風船をとろうと必死になっている。
また、アナウンスが流れ出す。電車がやって来る。その人はひとりで線路の上で踊っている。誰かが、その人の腕を掴み引っ張ろうとした瞬間!
ゴォォオオオ!!
キキィイイイ!!
「きゃあああ!?」
その人は、電車に轢かれてしまい、その人を引っ張って引き上がらせようとした人の手には、腕だけが握りしめられていた。
赤い風船は、変わらずふわふわと、駅ホームの周りを回っている。
しかし、誰もそこに風船があるということに気づいていない。いや、見えていないのだ
赤い風船は、駅ホームに飽きたのかのように、空へと上り、どこかへ飛んでいってしまった。
ーー赤い風船を見たら、必ずどこかで死ぬ……。それを見たらくれぐれもご注意下さい? もし見てしまったら……ふふっ
終
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