19:それじゃだめか?

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19:それじゃだめか?

 女優の芦名星さん亡くなられたというネットニュースを目にしました。これを書いている時点では自殺とみられているそうです。先日は三浦春馬さんが同じく若くしてこの世を去りました。  僕はお二方に対して強い思い入れがあるわけではありませんが、作品を拝見したことはありますし、何よりまだお若い年齢での死ということで、思う所があってこの記事を書いています。  自殺という行為に関してはこれまでも様々な議論が交わされてきました。「自殺するくらいの勇気があるなら、死んだ気になって生きればいいのに」、「生き辛い世の中から逃げるしか、彼らが楽になれる方法はなかったんだ」、「自殺は最悪の親不孝だ」、「馬鹿野郎」、などなど。  例えば闘病の末に生きる希望を失ってしまったとか、死ぬより辛い(と思える)苦痛に耐えられないだとか、鬱病による衝動だとか、きっかけは色々あるので、人の生き死にの問題に確かな正解はないのかもしれません。自殺と勇気の関係性も、今一つ僕にはわかりません。  だけど僕は単純に、勿体ないなぁ、と思ってしまいます。それはある意味損得勘定ですから、いわゆる俗物的な判断が可能であるならそれはまともな精神下にあるわけで、そもそもそんな状態で自死を選ぶことはないのでしょうね。  僕は生きていますから、自殺によって亡くなられた方々の話を見聞きする度にまず「勿体ない」と思ってしまうのです。  ホラー小説を書く前から、ヒューマンドラマを下地にした群像劇やミステリーを創作してきました。僕はなるべく現実味のあるお話を書きたいと思っているので、荒唐無稽な設定であっても、最近のようにホラーを書いていても、人間の生き死にというものには自分なりに真正面から向き合っているつもりです。例え残酷な死があり、軽はずみに人を殺めてしまう登場人物が出て来たとしても、主人公たちには大きな熱量を持って怒りを露わにしてもらうよう心がけています。 「今を本気で生きるすべての人に読んで欲しい。彼らのすべてが、ここにあります」 ━━ 『芥川繭子という理由』 「立ち昇る内臓に似た匂い(真新しい血の匂い)までもが愛おしく思えた」  ━━ 『風の街エレジー』  この2作を読んでいただければ、噓を言っていないことが分かってもらえると思います。  失われた命はなにをしても戻らないのだから、本当は冒頭にお名前を出したお二方のことだってそっとしておくのがベストなのかもしれません。かく言うこの僕も、常に真面目腐った顔で「本気で生きろ!」「負けるな!」なんて思ってるわけでも、人様に向かって喚き散らしているわけでもありません。だけど、やはり僕の中から出て来る素直な反応は、どんなことがあっても生きてた方がプラスなのにな、という思いです。  僕は今、一人がけのリクライニングソファを買おうと思ってるんです。ネットで物色して、いいの見つけて、16000円くらいなんですけど、ちょっとドキドキしてるんです。思ってたよりチープだったらどうしようかなとか、重たすぎて運べなかったらまずいぞとか、休日にゆったり座って映画みたいなとか、もうすぐ雨が降るから注文するのはもっと後がいいかなとか、でもやっぱり早く欲しいなとか。大多数の人にはどうでもいい、そんなくっだらない事を毎日頭の片隅に転がしながらワクワクしてるんです。  そんなんじゃだめですか? 今日を生きて、明日を迎える理由はその程度じゃだめですか? そういう小さな光を見つけることさえ、難しいですか?  財布の中に小銭が増えて来たぞ。あ、この間見かけたガチャガチャを回してみようかな。半日断食して、ペヤングの超大盛を一人で食べてやろうかしら。ダイソーで100円の額縁買ってきて、クローゼットに仕舞いっ放しにしてる写真集のお気に入りページを切りはなして飾るなんてのはどうだろう? 写真集切るなんてもったいないかな? でも目に触れることなく仕舞われっ放しよりはよくない? アマゾンプライムで気になってた海外ドラマを一日一話ずつ見てみようか。でも小説書きたいしな。読みかけの本もあるよな。時間、全然足りないな。  こういうのって、しょうもないですか?  世の中の人って、もっととんでもなく大変な事ばかり考えてるんですか? そういう人だって実際は大勢いるのでしょう。だけど僕みたいに、何気ない楽しさのひとかけらでだって、明日へ行くことは可能だと思うんです。死ぬなんて、勿体ない。  例え誰かに頼りたい時、周りに人がいなくたって、別にいいじゃない。自分一人で楽しめることはいくらでもある。絶対ある。ないわけない。死にたいと思った日以外は、楽しいことを楽しいと感じながら生きてきたんだから。親愛なる誰かさんに出会うまでは皆一人だった。そして最後は絶対一人で死んでいく。  僕は小さな楽しみを毎日見つけて、自分で自分を引っ張って行こうと思います。他人に頑張れなんて言う気もないし、頑張るなとも言わない。僕だって別に頑張ってないし、でも毎日そこそこしんどい。だけど死ぬよりは生きてた方が楽しい。ただそれだけです。それでいいじゃない。
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