20:僕の頭の中?

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20:僕の頭の中?

 さて。  お送りいたしました、『夜から生まれし獣』、いかがでしたでしょうか。一人でも多くの方に楽しんでいただけると嬉しいです。  早速ですが、今作に関して「本編未回収なところあるよー」というご指摘をいただきました。前もって宣言しておきますが、僕はご指摘を受けたことに対して怒ってなどいませんし、あてつけでこれを書いてるわけでもありません。その方は以前から僕の作品をお読み下さってた方であり、「今回もちゃんと読んでいただけたんだな」と却って喜んだ程でした。  とは言え、確かにご指摘通りの部分もあって、ここは広く読者の方々にもご理解いただければと思い、今回このような解説パートを設けてみました。何気に初めてかもしれないなあ、がっつりと自作を解説するのは。すこし長くなりますが、お時間の許す限りお付きあいください。  横柄な言い方に聞こえるかもしれませんが、誤解を恐れずに言うと、今回僕は本編の伏線回収に力を注いでいません。それはなぜか……。  僕は普段、物語の本筋を書き進めながら考えています。  初めに描きたいシーンの映像があり、その絵をつなぎ合わせる為にお話を考えているのです。ですが今作『よるけも』に限って言えば、最初からエンディングが決まっていました。エンディングというか、書きたいことが決まっていました。それが、新開水留、僕の自首でした。  エブリスタで作品を投稿する時には、まず表紙やジャンルや紹介文などをあらかじめ登録します。その時、本編を投稿する前から僕はこう言い切っています。 「予定調和なものなんて書かない」と。  そしてタイトル下のキャッチコピーにはこう書きました。 「この夏、僕らの身の周りで起きた出会いと別れのすべて」  ひょっとしたら読者の方は、もしかして今回誰か死んじゃうのか?と思われたかもしれません。しかし僕はこの作品を書き始める前から、 「巻頭歌」「新開自首」「文乃が新開に詩を読んで終わる」  この三つを描くと決めていました。このエンディングにたどり着くまで起こる出来事は、その前に書いていた三つの短編作を繋げ、膨らませて書いて行きました。  冒頭、一話目で「獣人」というワードを出したことで、「お、今回の敵はそういう感じ?」と思ってもらえたことと思います。これはあえてのミスリードであり、そして同時に獣は新開水留自身だったという結末を示唆していたのです。  この発想は、前作『九坊-kubo-』を書きながら、すでに構想していたことです。上に書いた三つの案のうち、もっとも重要視したのが、新開を自首させることでした。何故なら、僕の書く作品はすべて繋がっていて、時間軸もずれていません。  『文乃』シリーズはホラーですが、その他の作品はヒューマンドラマです。  『文乃』シリーズは霊能者がたくさん出てきてこの世ならざる者と戦います。だけど他の作品と同じ世界線で描く以上、荒唐無稽なフィクション、なんでもありのファンタジーにはしたくなかった。描くのはあくまでも人間であり、同じ世界で破綻なく生きていることが前提条件でした。  幽霊が出て来るから、とんでもないスーパーパワーをもっているから、死んだ人間さえ生き返るから、主人公だから、だから人を殺してもいい。  そんなご都合主義のお話にはしたくなかったのです。  予定調和なものは書かないと宣言した理由はこれなのですが、実はもう一つ、僕なりの理由があります。それが、伏線を回収しきらない、という点です。これは例えば書いている途中に宣言してしまうと単なる言い訳に聞こえてしまうので、終わってからお伝えしようと思っていました。  時間というものは、誰にとっても等しく同じように流れていくものですよね。僕は今回のお話の最後を「新開自首」「文乃の帰還」で書き終えると決めていました。しかし、今回の事件に関しては、新開が自首をした段階では解決していません。だから、書かなかったのです。  書こうと思えば書けます。僕が普段よく使う、「聞いた話だが」という書き出しを使えば、書けます。この事件の背景を考えられないわけではないし、むろん、忘れたわけでもありません。  何故書かなかかったのか。それは僕が書きたかったのは獣人事件ではなく、新開水留のけじめ、だったからです。そこに一番の焦点を当てて物語を終えたかった。  あの後山形杞紗はどうなった?  連続殺人事件は解決した?  何故秋月めいは襲われた?  土井零落はあのあとどんな行動に出た?  西荻平助とは何者か?文乃とは会ったのか?  人蔵浪江の母親はそれ以降現れなくなったのか?  全ての事象に、答えはあります。僕の頭の中に。  だけど、今これを読んでいる読者の方が体験する同じ時間に、すべての答えがパンと同時に出ることなど、現実には起こりえません。全てが繋がっているからこそ、いろんな場所で、いろんなタイミングで物事は進んでいく。  だからごめんなさい。  新開が自首した段階では、まだその答えを出すべきではないと判断しました。そしてそれら全ての疑問に答えを書いていくことは、一番書きたかった物語のピントをぼやかしてしまうのではないか、という危惧もあって、今回はこのような結末といたしました。  ではここで、これまでお付き合いいただいた読者の方々に、未来の先出しを少しだけ。  事件の顛末については、スター特典という形で一部お届出来ると思います。全部ではありませんが、この事件の背後にはこういうことがあったんだね、この後こういう展開になるんだね、というお話を提供いたします。しかし事件の核心に関与しない友情出演の方々については、触れていません。悪しからず。  ちなみに、僕の頭の中がどうなっているのか、という点も少しだけ。  新開水留が収容されたのは平成二十四年です。2012年です。  そして「よるけも」本編にて、竜二と翔太郎が新開に約束しています。五年でも十年でも二十年でも、娘の面倒を見てやる。彼らは約束の意味を知っています。約束を破るような男たちではありません。しかし、彼ら自身が主役として登場する『芥川繭子という理由』において、彼らはアメリカに進出します。海外に飛び出していきます。それが、2017年、4月です。  ……ここに、ひとつの答えがあります。  もう一つ。2012年、竜二たちにとってもつらい出来事を乗り越えて、2013年に発表された「DAWN HAMMER」5枚目のアルバム。賢明な読者の方ならお分かりですね? そのアルバムタイトルは、『GONE』。……去った。行ってしまった。さらに言えば、本来このアルバムは竜二発案の『GO』というタイトルになるはずでした。行け、もしくは、行こう。そして2017年、彼らは自身のバンドでベストアルバムを企画します。この時、彼らが『GONE』というアルバムから収録曲に選んだナンバーは、『ONE BY ONE BREAK』です。……少しずつ休め。あるいは、一つずつ、壊せ。  歌の歌詞やタイトルに意味なんかないと豪語する彼らですが、なんとなく、深読みしたくなりませんか?  そして最後に、文乃さんが詠んだ詩。  マーガレット・レイ・リンク 初期短編集「夜から生まれし獣」収録。 『親愛なる幼馴染にして天使。男勝りなブラッドリー・ジョーより贈られた手紙』です。このマーガレット・レイ・リンクさんのお名前は、僕の作品にちょくちょく登場します。知る人ぞ知る稀有な才能を持った詩人で、かの有名な『白き蟷螂』を収録した「風の街エレジー」という詩集を出された方ですね。『芥川繭子という理由』に登場するURGAさんの祖母にあたる方だったりします。  ご存知の方も多いと思いますが、ペギーという名前はマーガレットの愛称です。マギーとかメグと同じですね。そして『親愛なる幼馴染にして天使。男勝りなブラッドリー・ジョーより贈られた手紙』というタイトルにもある通り、これはマーガレットさんが幼馴染からもらった手紙に書かれていた詩である、という内容です。書いたのは、ブラッドリー・ジョー。実はこの人、作中「俺」と訳されていますし名前がジョーなのでややこしいですが、「男勝りな」とあるように、男性ではありません。……ここにも、楽しい仕掛けがあったりします。何故ならブラッドリー・ジョーは……。おっと、喋り過ぎるのはよくないな。  そこのあなた、今「おおおお」って思いました? ぐっときちゃいました?  ほんとはそこまで考えてなかったくせにー!って?  さあ、どうでしょうねえ。  ではまた、別の作品でお会いしましょう。  さようなら~。
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