22:いつ終わるの?

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22:いつ終わるの?

 いつ書いたかも覚えていないエッセイの下書きが残っていたので、ここで供養させて下さい。  ……ベタなお話なのですが、皆様、「頭痛が痛い」問題はどのようにお考えですか? 読者様と作家様ではもしかすると考え方が違うのかもしれませんが、僕の場合はおそらく読者寄りの立場から見て、違和感ばりばりなので使いません。作家様はおそらく文法を学ばれていたり、小説の書き方を学ばれた方もいらっしゃると思いますので、知識として「正しい」「正しくない」という意見をお持ちなのではないでしょうか。  「頭痛痛い」ならOKとする方もいらっしゃるようですが、僕はこれも無理です。あ、あくまで個人的な捉え方なので苦言や愚痴ではありません、悪しからずご了承ください。  理由としては単純に、変な感じ、です。  頭痛という言葉を読んだり聞いたりする場合、もっとも多く票を集めるであろう見方は「頭が痛い」ですよね。頭が痛いという状況を頭痛という症状で言語化しました、と。そうなると、「頭が痛いが痛い」「頭が痛いで痛い」という表現に思えてならないので、これはもう違和感しかない。同じように、違和感を感じる、とかも出来れば使いたくない。  一方で、頭痛は「症状」だから文法上間違いではない、とする意見もあるようです。こうなってくると「最初にルールがあって、決まっているから変ではない」というスタンスがまかり通ってしまう。例え違和感があっても、正しいんだ!と言われてしまうと僕なんかは「ははあ、すみませんすみません」となる。……自分では使わないけども。  症状=名詞と考えた場合、「骨折で痛い」と同列の扱いになるということなのでしょうか。「頭痛」=「骨折」だから「頭痛で痛い」もOKと。ふむふむ、なるほど。  ……でもさ。じゃあさ、「痛」を使うなよ、と思ってしまうんです、僕は。例えば「頭傷」とかさ、「頭病」とかさ、  とまあ、こんなどうでもいい下書き発表しなくて正解なんだよ、と自分を戒めるためにも書きかけの駄文を曝してやりました。本題はここからです。以下は裏ネタともいえる内容ですので、あまりバックグラウンドには興味がない、知りたくないという方はご遠慮下さい。  『希人暗夜行』が完結いたしました。  お読みいただけた皆様、お疲れさまでございました。そして心より御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。今回初めて執筆後記なるものを認めておきたいと思いたち、これを書いています。  物語の内容に関しては、あらすじにも載せた通り「集大成」的なものとして位置づけ、若干無理やり引っ張って来たなと思う場面こそあるものの、これまでシリーズを通して描いてきた登場人物たちの人間模様をうまく配置し、織り込むことが出来たのではないかな、と満足しております。  基本的には悲しい話が好きでホラーを書いている部分もありますので、本当はここだけの話、秋月六花もツァイくんも、土井代表も死んで終わるはずでした。僕はリアリティのない設定には感情をこめて書くことが苦手なので、本来ならギリギリあり得るレベルの日常を書いていたかった。なので死んだ人間が生き返るなんて、と最初は敬遠していました。しかしご存知の通り、シリーズ一作目にあたる『文乃』の段階で、もはや現実としてあり得ない話を書いてしまっているのです。だったら、悲しい世の中になってしまった今だからこそ真逆を行ってやれ……と。  もしかするとここらへんは好き嫌いの別れる展開だったかもしれませんね。だけど僕は、今回のような物語を自分自身が欲していた、という風に解釈しています。  そんな、やはり荒唐無稽と言われてしまうような作中世界において、どうやったらリアリティを失わずに書き続けることが出来るかと考え、出した答えが、登場人物たちの人生をつぶさに見つめること(ひとりひとりがそれぞれの人生を生きている、ということを忘れない)、そして感情を大切にすることでした。普通は、創作された物語の中で、人の命はとても軽いのが常です。特にホラーやファンタジー、ミステリーといった作風では当たり前のように人が死んでいく。だけど、そんなわけない。人の命が軽いわけがない。そして人はそんなに簡単に諦めたりしない。そこが、僕がこのシリーズを書くにあたってこだわり続けた部分でした。なので、その他の部分はホラー小説らしく、思いつくままアイデアを詰め込んでやれ、といった気概で書いていったように思います。  その他の部分……いわゆる霊的な事象、霊能力にまつわる部分については今作がもっとも現実離れしていて、振り切って書けているんじゃないかな、と思っています。相変わらず幽霊はほとんど出て来ませんが、拝み屋として生きる新開や三神さんの技、新井原地区の赤い川、九坊の計画、文乃さんに打たれた呪い、能見陸王、平山恩、神の子の面目躍如、幻子の本気、などなど。このあたりに関しては僕なりに、いかにも現実的な要素を散りばめながらも……ね、皆色々と、超人ぶりを発揮してくれてました。  ただし、物語の着地点といいますか、僕はいつも書きながら話の筋を考えているので、どういう終わり方をするのかは中盤以降になるまで見えていませんでした。  本来『希人』を書き始める前に考えていた構想の中心にいたのは、実を言えば残間京でした。そして黒井七永でした。この2人を中心にして『希人暗夜行』を描くつもりだったのですが、気が付けば、皆様にお読みいただいた通りの結果になったわけです。これが良いか悪いかは僕にも分かりませんが、おそらく、再び同じ人物を中心に据えて構想を練り直す、ということはしないと思います。出来るものなら、最初からそういう物語を書いていたはずなので。  そしてこのエッセイのタイトルにもある通り、自分でもこの「新開シリーズ」をいつまで続けるのか、という葛藤もあります。もちろん好きで書いているので永遠に続けることが出来るのですが、時間は24時間しかないわけで、このシリーズに関わる間は他の作品が書けない、そこが唯一の難点です。書きかけのヒューマンドラマもありますし、ホラーというジャンルで真っ新な新作も書いてみたい。それこそ原点回帰した作品で最恐小説大賞にチャレンジしてみたい。  ……なので、新開シリーズとは一旦さよならをしたいと考えています。さようなら新開、というわけです。  実際には、もう構想の進んでいる外伝を一本書いてから、次なる新世界に飛び込もうかなと思っています。むろん僕の作品をたくさんお読みいただけた方はご存知だと思いますが、僕の紡ぎ出す世界は全て繋がっているので、新世界と言ってもそこは変わりません。要は誰の目で見る世界なのか、ということです。  新開含め、登場人物たちの年齢層も上がってきました。そうなると、若い力、今回で言えばミョンヨンたちペク一族や少し成長した成留、由宇忍の子であり九坊の忘れ形見でもある権三の登場などが新しい風を吹かせてくれたわけですが、主人公に据えることの出来る逸材かというと、まだそれ程でもない。  ちなみに、4姉妹だけで新シリーズを書くという案も練っていましたが、やめました。理由は、若い彼女らを活かすためにはキャラクター性を押し出す必要性が増すと思いましたし、そうなるとどうしたってキャラ文芸みたいになってしまうこと(キャラ文芸が悪いわけではなく、僕には書けないということ)、そして国が変わることで敬遠される読者もいるだろうな、という懸念です。  ちなみに、こういう機会がないと言えないことなので断言しておきますが、黒井一族と大神鹿目の因縁についても、これをテーマに作品を書くことはありません。具体的には、文乃さんがかけられた死なずの呪いしかり、そもそも何故姉妹は大神鹿目を殺してしまったのか、という点についてです。もしかしたらどこかで期待されている方がいらっしゃったら、すみません。書きません。  ここにも理由は2つあって、単純に時代が遡り過ぎて時代劇になってしまうのと、物語を構築する世界の謎をすべて解き明かしてしまうのは無粋だな、と思うからです。  今現在連載の準備を進めている外伝に関して告白しますと、実はそれこそ無粋なんです。え、そこの謎の解き明かすの? という反応を皆様から頂戴するはめになるかもしれない。だけど前もってお断りしたいのは、僕が書きたいのは謎を解き明かす部分ではなく、彼女と……あああっ、今はまだ言えない! 危ない危ない、未発表作の核心を突くところでした。  というわけで色々と申しましたが、『希人暗夜行』、とても思い入れの強い作品になりました。シリーズの色んな要素をちょっとずつ摘んでスパイスとして取り入れる、なんてのは長編作を書き続けてきた僕の特権であり、全てをお読みいただいた皆様だけが味わえる隠し味になっていたのではないでしょうか。  我ながら「赤い川」の使い方と使い所は巧かったな、と(笑)。  あとはやはり、三神さんですよ。彼の生き様を描けたことは、彼らを側で見守り続けて下さった皆様にとっても、希人である三神さんのとった行動には心を動かされるのではないでしょうか。  ……色々書いたなー。  六花さんの最期の本音。  柊木さんの覚醒。  成長した成留。  ミョンヨンという新鮮な香りのする風。  坂東さんが話すことをやめた秘密。  ツァイくんと幻子の強さ、そして絆。  新開の帰還&拝み屋としてやる時はやるぞって場面だとか。  短編読み切り出身の滝さんが良い味出してたな、とか。  阿頼耶識一休はやっぱり、誰にも負けて欲しくない人。  野津天蓋とめめちゃんは物語に奥行きを作った。  直政も、退場にならなくて良かった。  涼白さんと九里先生にはもう少し関わってもらうべきだったかな?  由宇忍が出てくるとは誰も思わなかったんじゃないかな。  そしてシリーズ通して最大最強の敵、九坊。  この男と壇滅魔の書き分け、計画の全貌が明かされるまで。  その死の真相とは……?  全部最初から見抜いてたぞって人がいたら、挙手してください。スーを差し上げます(笑)。ゴイゴイスー!  あー、今はまだ、お腹一杯です。    では、また、次なる作品でお会いしましょう。  新開水留でした。
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