第十話 決戦

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 森の中を進む五人組。揚羽(あげは)朝顔(あさがお)夕顔(ゆうがお)桔梗(ききょう)牡丹(ぼたん)である。  しかし、カタリナ地方は広い。どこに白百合(しらゆり)達がいるのかもわからないので、まず各方角に配置されている部隊を巡る事にした。  そこへ向かう間も、各自が二人の気配をさぐっている。 「……ん?」  五人の中で一番探査能力に優れている桔梗と牡丹が同時に反応した。 「いたか?」  尋ねる朝顔に首を振る牡丹。 「白百合達やあらへんが……この先に数人……ひぃ、ふぅ、みぃ……三人……気配がある」 「それも……えらい急いでる様子どすなぁ」 「どうやら……味方ちゃうくて敵のようどすなぁ」  桔梗と牡丹の二人が感じた事を伝え合う。 「なら……そいつらを追って見るかの?桔梗に牡丹……距離は分かるか?」  揚羽が尋ねると、また意識をその気配へと集中させる二人。 「そうどすなぁ……約二百メートル言うたところどすか?」 「だいたいそれくらいどすなぁ」 「よし……相手に悟られぬぎりぎりのところまで近づこう」  五人は走る速度を少し上げた。それでも全く足音はしない。前を走る者達が白百合達でないなら、そこまで探査能力は高くないはずである。それでも念の為、揚羽達三人が察知出来るか出来ないかのところまで近づいていく。 「これくらいの距離が限界じゃろう?」  朝顔が五人へと声をかけた。皆もそれに同意し速度を落とす。 「あら申組の黒猿(くろざる)の気どすなぁ」 「やっぱし……どっかで感じた事ある思たはずやわ」  先程よりも更に近づいたからか、その気が誰のものなのかに気付いた二人。 「黒猿か……なら、これくらい離れとった方が間違いはなさそうじゃの」  桔梗や牡丹に敵わないとしても、黒猿は東方の中でも探査能力に長けている。その能力は揚羽達にも匹敵する程だった。 「ぬしらが頼りじゃ……桔梗に牡丹」 「任せとき」 「ところでな、知っとったか?白猿と黒猿は違う修練場出身じゃという事を」  ふと呟くように夕顔が他の四人へと尋ねると、尋ねられた四人は初耳だと返事をした。それを見た夕顔が何か考えている様な表情になっている。 「それがどないしたん?」  そんな夕顔を不思議に思ったのか桔梗が夕顔に話しかけるが、夕顔はいいやと一言返すと、もとの表情へともどっていた。  他の組は基本的に隊長と副長は同じ修練場出身者が多い。しかし、申組は別である。隊長である白猿と副長の黒猿。二人とも、申組へと配属されるまでは全く互いの事など知らなかった。戦闘能力的には同等のA+。それでは何故白猿が隊長になれたのか?  理由は簡単である。二人が白蛇から呼ばれ隊長選抜の声をかけられた時に、黒猿が辞退したのである。自分は上に立つより影で支え動く方が適任だからと。それを白蛇が受け入れ、副長に任命した。  己の事はほとんど話さない黒猿。隊長の白猿も黒猿の事をよく知らないのである。しかも、黒猿の事を知っている者自体、申組にいない。それに、探査能力の高い黒猿の事を迂闊に調べる事も出来ない。だが、任務を繰り返していくうちに、黒猿の忠誠心の高さや、その真面目さにそんな事などどうでも良くなった白猿も、今では副長として黒猿を信頼している。 「それとな、黒猿はどこの出身どすか?」 「……なんじゃ、いきなり?」  突然、牡丹から質問を受けた朝顔。知らんと答えた朝顔と同じらしく、他の四人も首を振った。 「黒猿の事をほとんどの人知らへんのどす。あの白猿かて。今は白猿も、えらい信頼してはるみたいどすけど、不思議ちゃいますか?出身地くらいは……なぁ」  確かに出身地位は知っていてもおかしくないはずである。だが、修練場の推薦がなければ十二支隊どころか暗部に入る事が出来ない為、東方出身という事だけは間違いない。東方のどこなのか……南部、北部、東部、西部、中央か。それとも、黒猿の事を秘密にしておかなければならない何かがあるのだろうか。 「言われてみれば不思議じゃなぁ……」 「うちらが知らん言う事は……南部でも北部でも西部でもないっちゅう事やなぁ……あとは北部か中央。まぁ、北部の者はほとんど御影衆やさかい……残るは、中央だけや」 「北部でも暗部になった奴はおるぞ?じゃが、数は少ない……逆に目立つよのぉ」 「そやろ?なら中央や。そんでな……中央出身なのに隠されるのは……黒猿が帝の隠し子やからや」 「……っ!!」  牡丹の話しに驚きを隠せない三人。夕顔だけがにたぁっとわらっている。何かに気づいたのか。 「……うちの妄想やけどなっ、けけけっ」 「ふへっ……有り得んでもないぞ、牡丹」 「なんでや?」 「知らん」 「なんやそれ」  夕顔が何か知っているかと期待していた牡丹があからさまにがっかりしている。これから死闘をしに行くとは思えない雰囲気であった。  そんな楽しそうな雰囲気の中、すっと桔梗が真顔になった。牡丹も同じである。何かを感じ取ったのである。 「……皆、気ぃつけてや。黒猿達の先に、ぎょうさんの気ぃ感じるわ」 「もしかしたら……白蛇もおるかもしれへんな」  先程までの和気藹々とした雰囲気が一気に緊張感へと包まれていく。  しかし、五人は知らなかった。これが仕組まれた罠だと言う事に。そして、甘く見ていたのだ。申組達の気配を隠す偵察能力の高さを。
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