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そこはかつて広大な常磐緑の絨毯が敷かれたような美しい草原で、その絨毯の表面をなぞるように優しい風が吹き、遊牧の民達が疲れた家畜たちを休ませる姿がよく見かけられた、とても平和な大地であった。
しかし、今そこにあるのは優しい風でもなく、のんびりとしている遊牧の民の姿でもない。
あちらこちらに山と積まれた死体とその一部分と思わせる欠片。
太陽の日差しを存分に浴びて香る草の匂いは、生臭い血の臭いと死体からでる腐臭に変わり、普通の人間ではまともに居られない様な地獄絵図と成り果ていた。
その地獄絵図と化した草原の真っ只中に、全身をどす黒く乾いた返り血で染め上げ無表情で視点の定まらない目をしている少女が立っていた。
少女は身長と変わらぬ大きさの刃をした鎌を両腕で抱えるように持っている。しかし、その少女は少しも鎌の重さを感じていない様子である。
風で少女の亜麻色の二つ結びにした長い髪がゆらゆらと揺れている。
そして、少女が歌う鼻歌がその風に乗って遠くまで運ばれて行く。まるで、自分が殺した者達への鎮魂歌のように。
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