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「泣かないで」
指先で頬を拭ってくれた貴女の少し困ったように下がった眉に、僅かに開いた唇に……この胸が痛い。
だから、精一杯強がって言った。
「泣いてなんかないよ」
泣いていたけれどそんな事は認めないでいた。
だって、また貴女に会えるなんて思ってもみなかったから、この場所で再び会えた事が何よりも嬉しいんだ。
見つめ合えば、胸の奥が苦しい程に疼いて震えた。そんな俺を見て何か感じたのか、貴女が今度は両手で俺の頬を柔らかく挟むようにして触れた。
「でも悲しそう」
その言葉にトロトロと感情が零れていく。
悲しいさ、悲しいとも……だから思わず小さく呟く。
「あぁ、悲しいかもしれない」
だって貴女は……あの甘い日々の記憶のままの美しさでそこに変わらず立っていて、その事が有り得ない事だからこそ、酷く悲しいんだ。
「泣かないで、悲しみはいつか癒えるわ」
あの日と同じように貴女は真っ直ぐな瞳で俺を見て言葉を紡ぐ。
「そうだといいね」
だから俺も真っ直ぐに貴女を見つめて応えるのだ。
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