大田ん家

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大田ん家

ピンポーン。 玄関に立ち、チャイムを鳴らす。 しばらくすると、ドタドタと階段を降りる音が聞こえガチャリとドアが開き、見慣れた大田の顔が出てきた。 「おお、どうしたの、なんかずぶ濡れじゃん。」 そう言いながら僕を中に招き入れる。風邪だと言って休んでいたが、見た感じ身体の不調は感じられなかった。 「お前、風邪なんじゃなかったけ。」 素朴な疑問を口にすると、大田は少しバツの悪そうな顔で笑った。 「ああ、学校ね。めんどくさかったから休んだ。今日も親ふたりとも仕事でいないし、たまにはいいかなぁって。あ、でも、若干頭痛がするのは本当だぞ。」 「そんなことだろうと思った。」 こいつとは幼稚園から一緒だが、一度たりとも本当に寝込んだことを見たことがない。休んでいるときはだいたいこれだ。 「それよりびしょ濡れでどうしたんだよ。お前のほうが風邪引くぞ。」 風呂場から持ってきたタオルを僕に手渡しながら、珍しいものを見る目で僕を見る。 「雨嫌いで必ず傘を持ち歩くお前が珍しいな。しかも自分の家に帰らず俺ん家に直行とか。なんかあったの?」 相変わらずこいつは察しがよくて助かる。 僕はずっと右手に乗せていたハンカチを開いた。 「拾った。」 大田は目をパチクリとさせ、しばらくプルプルつ震えるそいつを見つめたあと、目を閉じて「あー。」と言った。 「えーと、ちょっと待てよ。・・・うん。これなあに?」 大田がなんとも言えない表情で僕を見る。 「知らん。」 「じゃあ拾ったってなに?」 「"拾ってください"て書いた愛媛みかんのダンボール箱の中にいた。」 「え、なにそのベタな感じ。っていうか、まって。なんでそのダンボールの中に未確認生命物体的なのが居るの?その前に、お前こういうの拾ってくるタイプだったっけ?」 色々と疑問が浮かんでいる大田をよそに、僕は風呂場へと足を運ぶ。 「とりあえず、なんかこいつ震えてるし僕も寒いからとりあえず風呂借りる。」 不安そうな目をしたそいつを洗面台にそっとおろし、ちょっとまっててね、と声をかけ風呂場に入る。「徹がそんな優しい子に育っていたなんて母さん嬉しいわぁ」などとのたまう大田を尻目に蛇口をひねり、お湯を出した。
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