1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
大田ん家
ピンポーン。
玄関に立ち、チャイムを鳴らす。
しばらくすると、ドタドタと階段を降りる音が聞こえガチャリとドアが開き、見慣れた大田の顔が出てきた。
「おお、どうしたの、なんかずぶ濡れじゃん。」
そう言いながら僕を中に招き入れる。風邪だと言って休んでいたが、見た感じ身体の不調は感じられなかった。
「お前、風邪なんじゃなかったけ。」
素朴な疑問を口にすると、大田は少しバツの悪そうな顔で笑った。
「ああ、学校ね。めんどくさかったから休んだ。今日も親ふたりとも仕事でいないし、たまにはいいかなぁって。あ、でも、若干頭痛がするのは本当だぞ。」
「そんなことだろうと思った。」
こいつとは幼稚園から一緒だが、一度たりとも本当に寝込んだことを見たことがない。休んでいるときはだいたいこれだ。
「それよりびしょ濡れでどうしたんだよ。お前のほうが風邪引くぞ。」
風呂場から持ってきたタオルを僕に手渡しながら、珍しいものを見る目で僕を見る。
「雨嫌いで必ず傘を持ち歩くお前が珍しいな。しかも自分の家に帰らず俺ん家に直行とか。なんかあったの?」
相変わらずこいつは察しがよくて助かる。
僕はずっと右手に乗せていたハンカチを開いた。
「拾った。」
大田は目をパチクリとさせ、しばらくプルプルつ震えるそいつを見つめたあと、目を閉じて「あー。」と言った。
「えーと、ちょっと待てよ。・・・うん。これなあに?」
大田がなんとも言えない表情で僕を見る。
「知らん。」
「じゃあ拾ったってなに?」
「"拾ってください"て書いた愛媛みかんのダンボール箱の中にいた。」
「え、なにそのベタな感じ。っていうか、まって。なんでそのダンボールの中に未確認生命物体的なのが居るの?その前に、お前こういうの拾ってくるタイプだったっけ?」
色々と疑問が浮かんでいる大田をよそに、僕は風呂場へと足を運ぶ。
「とりあえず、なんかこいつ震えてるし僕も寒いからとりあえず風呂借りる。」
不安そうな目をしたそいつを洗面台にそっとおろし、ちょっとまっててね、と声をかけ風呂場に入る。「徹がそんな優しい子に育っていたなんて母さん嬉しいわぁ」などとのたまう大田を尻目に蛇口をひねり、お湯を出した。
最初のコメントを投稿しよう!