大田ん家

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「お前、緑色だったんだな・・・。」 風呂からあがり、濡れて黒く見えていたまん丸いそいつをドライヤーで優しく乾かすと、ふわふわの緑の塊になった。 相変わらず目はおおきくてまん丸くキョロキョロしているし、小さい口らしき部分は毛に隠れて見えないが、こころなしかニコニコとしているように見える。 「で、本題に入ろう。こいつはなんだ。」 大田が僕の隣でそいつを観察しながら言った。 「だから知らん。」 僕が言い切ると、大田は頭をかいてうーんと唸った。しばらくの沈黙の後、また大田が口を開いた。 「とりあえず、こいつ何食べるんだろう。」 確かに、と僕はつぶやいた。あの時の目の必死さに押されて無責任に連れて帰ってきてしまったものの、この緑のふわふわをここで放置というわけにはいかないだろう。 「とりあえず・・・牛乳とか?」 「子猫かよ。」 大田は僕の安直な案に即座に突っ込みながらも、とりあえず冷蔵庫のもん試してみるかぁ、と言いながら台所に向かうと、しばらく物音をさせたあといろいろなものを持ってリビングに現れた。 牛乳、コーラ、魚肉ソーセージ、チーズ、レタス、人参、じゃがいも、ポテチ、白いご飯・・・などなど。 結果として、少量ずつではあるが全部飲んだし食べた。中でものり塩味のポテチがお気に入りのようで、差し出すとポンポンとはねながら近づき、身体をフリフリと揺らしながら自分より大きなポテチにかじりついた。 「ひとまず、食の問題は片付いたな。」 一生懸命ポテチを食べ進めるそいつを見ながら大田が言った。僕もそれに同意したが、問題はまだまだたくさんあった。排泄はどうするのかとか、どういう環境を整えればよいのかとか、大体こいつはなんなのかとか、どこからきたのかとか、そもそも本当に僕はこれと一緒に暮らすのか、とか。 いろいろと頭を巡らせていると、それで、と太田が口を開いた。 「名前はどうするんだ?」 「・・・は?」 思いがけない質問に、思わず間抜けな声が出た。 「え?名前。必要だろ?」 「名前って・・・。いつまで一緒にいるかさえわからないのに。」 とはいえ、言われてみればたしかにそうだ。ずっとこいつと呼ぶわけにもいかない。これから一緒にいるにしろ、どこかに返すにしろ、名前は必要だ。 大田は必死に悩む僕をニコニコと眺めていた。どうやら名前は僕に考えさせるらしい。犬も猫も飼ったことのない僕に、一体なにを期待しているやら。 テーブルの方に視線をやると、ポテチを一枚食べ終わった緑色のふわふわと目があった。なんとなく満足げな顔である。憎めないその姿に僕はため息をついた。 「わかったよ。・・・じゃぁ、もふ丸。」 「見たまんまだな!」 安直な名前に即座に反応する大田。 だが続けて、でもお前らしくていいじゃん、と笑ってくれた。 テーブルに目をやると、わかったのかわかっていないのか、こちらをキラキラした目で見つめるもふ丸がいた。
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