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リビングでおじさんがニュースを見ているのだろう。長く続いた梅雨もようやく明日から明けそうです、などといった声が僕の部屋まで聞こえる。
ポテチをしゃくしゃくと食べるもふ丸をそっとなでながら、
「雨、少なくなっちゃうね。紫陽花の季節ももう終わりだ。」
とつぶやいた。あんなに梅雨が嫌いだったのに、この季節が終わるのを惜しんでいる事に気づき、自分でも驚いた。
「お前はすごいなぁ・・・。」
机に右頬をつけて目線をあわせ、もふ丸に微笑みかけた。
もふ丸はポテチを食べるのをやめ、こちらを不思議そうに見ている。
「僕さ、雨が嫌いだったんだ。」
僕は言葉を続けた。
「雨だったんだ。僕の父さんと母さんが死んだの。」
もふ丸は僕を見つめている。
「車ででかけてたんだ。父さんと母さんは前に乗ってて、僕だけ後ろの座席で。僕はまだつかないのってぶーたれててさ。母さんが歌を歌って慰めてくれた。父さんも運転しながら一緒に歌いだして、そしたら僕も楽しくなってきてさ、車の中で大合唱。」
そこで一度言葉を切り、小さいため息をついた。
「その後覚えてるのは、激しい雨の音と、車の衝突音。それから冷たい感触。あのときから、雨の日が、ううん、僕の人生が嫌いだった。」
独り言なのか、語りかけているのかは僕にもわからなかった。ただ、いままで誰にも話したことのない心の声を、もふ丸は静かに受け止めてくれていた。
「でもお前が来てから、僕は雨が嫌じゃなくなった。あの日生き残った僕のことも、もういいんだって思えるようになった。」
もふ丸がひょこひょこと僕の手の方へ移動し、慰めるようにスリスリと身体を擦り寄せてきた。
ふわふわとした毛が少しくすぐったくて、この小さな家族が愛おしくて、僕は笑った。
「梅雨は明けちゃうけど、明日も散歩行こうな。」
嬉しそうにもふ丸はぴょんぴょんと飛び跳ねた。
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