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そして
次の日、目が覚めるとカーテンから強い日差しが部屋に漏れていた。起き上がってカーテンを開けると、そこには真っ青な空が広がっていた。
「梅雨、本当に明けちゃったよ。ね、もふ丸?」
そう言っていつものようにベッドの隅を見るが、もふ丸の姿が見えなかった。
「あれ?もふ丸ー?」
ベッドの下にも机の上にも、ポテチの袋の中にもいない。
必死に部屋の中を探したがどこにも見当たらなかった。
僕は慌てて大田にも事情を説明し、手分けして一緒に探してもらうことにした。
家の中はもちろん、紫陽花の咲いている公園も、近所のコンビニも、学校の中も、一緒に行ったところはすべて探した。
でも、もふ丸はどこにもいなかった。
学校から家へと戻る途中、大田も僕も一言も話さなかった。
ただいつも通り、栄えているのかいないのかわからない商店街を進み、今では少し珍しい昔ながらのおばあちゃんのタバコ屋の角を曲がり、会ったこともない増田さん家を通り過ぎて、水かさが増え音を立てて流れる川沿いを歩く。
いつもどおりの景色。
ほとんど作業のように半ばぼーっとしながら歩みを進めていると、突然つま先に何かがあたり、蹴飛ばした。デジャヴのような感覚にはっとして顔を上げると、そこには愛媛みかんのダンボール箱があった。
「っ!!もふ丸!!」
鼓動が高鳴り、蹴飛ばして少し先まで滑ってしまったダンボール箱に駆け寄り中を確認する。中に敷かれたピンクのタオル。そして、まるで今までそこにいたかのような、丸いちいさなくぼみ。
「・・・もふ・・・丸・・・。」
水滴がじわっとダンボールを濡らす。大田が僕の肩を励ますように叩いた。
そこで僕は気がついた。水滴は、僕の涙だった。
しばらくそのままの体勢で僕は泣き続けた。大田は黙ってずっと側に居てくれた。
日が傾き、あたりがオレンジ色に染まり始めた頃、ようやく僕は立ち上がった。せめてもの思い出に、とダンボール箱を拾い上げる。
ふと、書かれている文字が違うことに気がつき、僕はまたダンボール箱を抱えて泣いた。
ダンボール箱には、こう書かれていた。
"とおる、ありがとう"
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