雨の日のダンボール

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雨の日のダンボール

空は灰色、僕の気分は大概ブルー、紫陽花だけが綺麗にカラフルに彩られる季節、梅雨。学校と家の往復も、近所のコンビニに出向くときも、隣の大田ん家に行くときでさえ、片手には傘の重量を感じて正直うっとおしい。僕の大嫌いな季節。 その日も変わらず雨だった。 いつも一緒の大田もたまたま風邪を引いたらしく休みで話す相手もおらず、ただただ雨の中、傘を持つ手と足元がしっとりと濡れて冷たくなっていくのを感じながら、できるだけ心を無にして下校の道のりを歩いていた。 いつもどおり、栄えているのかいないのかわからない商店街を進み、今では少し珍しい昔ながらのおばあちゃんのタバコ屋の角を曲がり、会ったこともない増田さん家を通り過ぎて、水かさが増え音を立てて流れる川沿いを歩く。 いつもどおりの景色。 ほとんど作業のように半ばぼーっとしながら歩みを進めていると、突然つま先に何かがあたり、身体が前につんのめった。慌てて出した次の足を目の前の障害物が阻み、傘が中を舞った。 「痛たたたたたた・・・。」 ため息をつき、うちつけたお尻をさすりながら先程躓いた障害物に目を向ける。 "拾ってください" そう書かれた愛媛みかんのダンボール箱を見て、最初に出た感想は、 「ベタだなぁ・・・。」 可哀想だとは思うが、犬だろうと猫だろうと家につれて帰る気はない。ただ、雨に濡れたままなのは流石に気の毒だと思ったので、少し遠くに落ちた傘を拾い上げ、ダンボール箱にかざしてやろうと近づいた。 徐々にダンボール箱の中身が見えてくる。中に申し訳程度に敷かれているのであろうタオルのピンク色。そして濡れた毛がべっとりとまとわりついた黒っぽい身体。段々と見えてくる身体は、ダンボール箱に対してとても小さいように感じる。 (生まれたてだろうか・・・。) 寒くて身体を丸めている為か全体が確認できないが、かすかに震えている。捨てたのは僕じゃないが、このような仕打ちに同じ人間として申し訳ない気持ちを抱きつつ、ダンボール箱の中が確認できる位置まで近寄った。 ダンボールの全容が見える。 そして僕の動きは止まった。 丸い。 丸まっている、とかのレベルではない。 ひたすらに丸い。 ボールだと思いたいが、小刻みに震えているうえに、目のようなものがついておりギュッと閉じている。さらに口のような部分から食いしばった小さな歯が見え、よく聞くとカチカチと音を立てている。 状況が理解できず何度も目を瞬き唇を噛んだりなめたりしながら、止まった思考回路の中から目の前の生物の名前を割り出そうとするが、残念ながら該当する生物など導き出せず、呆然とその生物を見つめていた。 しばらく見つめていると、雨が落ちてこないことに気がついたのか、目の前の生物が固く閉じていた目を開け、上を見た。 小さな体には少し大きな目。まるで某すすのマスコットのような姿。まんまるとした目は驚いた僕を見つけ、そしてじっと僕を見つめ返してきた。 『イキタイ・・・。』 そいつのその目は必死にそう訴えかけてきた。 気がつくと僕はダンボール箱の側に跪いて、そいつをそっと手のひらに乗せていた。
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