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越谷和人と足立加奈子は、交際を始めて一年もの歳月を共に過ごした。同い年の二人は二十五歳の時に合コンでの出会い、数回のデートを重ねて告白、恋人同士の関係となった。
付き合いたての頃、和人は加奈子に対してほとんど愛という感情を持っていなかった。何となく気が合いそうだという曖昧な根拠のもと交際を開始し、ただ恋人がいるという優越感に浸っていたのだった。しかし、一年と言う時を過ごす中で、和人の中の加奈子という存在は少しずつ大きな存在となりつつあった。
「そういえば、来週は高校の同窓会があるの」
ある日のデートの最中、カフェのテーブルで向き合いながら、加奈子は和人にそう告げた。
「へえ、同窓会か。いいなあ」
「うん。一応ね、男の人も来る飲み会だし、和人には言っておこうと思って」
「別に変に気を遣ってくれなくても大丈夫だよ。楽しんでおいで」
「ありがとう。かなり久しぶりに会う子もいるし、楽しみなんだ」
そう言って、加奈子は過去を懐かしむように、ふわりと笑った。その表情を見て和人もつられて笑った。同時に、どこか居心地の悪さも感じた。
「そっか、初恋の相手もいたりして」
「初恋じゃないけど、元カレならいるよ。多分同窓会にも来るんじゃないかな」
「えっ、加奈子って高校時代に彼氏なんていたんだ。意外だなあ」
「意外って何よう。私だって青春してたんだから」
頬を膨らませるも、加奈子の目は怒っていなかった。和人はごめんごめん、と悪戯っぽく笑って見せる。
「そうだね、加奈子は可愛いもんな」
「またそういうことさらっと言うんだからー。本心じゃないでしょ」
「何言ってんだよ、本心だよ」
「ならいいけど」
今度は満足げな笑顔。表情がころころ変わり、感情が分かりやすい。これも加奈子の魅力の一つだった。人懐っこく、無邪気。この一年で和人は加奈子の色々な面を知った。今まで付き合ってきた女性とは違って、どこか加奈子は特別だった。
「まあ、浮気すんなよな」
「変なこと言わないでよ、今の私は和人が一番なんだから」
「もちろんそれは分かってるよ」
「何それ、それはそれでムカつくー」
何気ないやり取りのつもりだったが、和人は鼓動が早まるのを感じた。そして、その鼓動の速度を説明する言葉が和人には見つからなかった。浮気をするな。思わず出た言葉だったが、和人は自分でもなぜそのような言葉を発したのか、これもまた原因不明のことだった。
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