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第2話 法の外の話
東京に星空は無いと言うが、代わりに人工の光が地上を照らす。江戸の時代から続く輸送路である水路の水面にもネオンが映り揺れている。
地上の道ほど自由度は無いが使いようによっては車より速く東京を移動できる。
水上バス用の船着き場ではないが、ちょうど水路の流れが緩やかになる岸辺にワゴン車が一台止まり、碇を降ろした中型艇が横付けされていた。
平行する道からは土手が視界を遮り、近くに高いビルもない。人目から隔絶された岸辺で三人の男達がワゴン車の荷台から船に荷物を運び込んでいる。桟橋はなく揺れる船体だが男達は船側と岸側に別れ慎重に手渡しで船に荷物を運び込んでいる。
「そうそう、丁寧に扱ってくれよ。水路の底に沈めたらおじゃんだぞ」
誰にも見られていないと安心しているようだが、ところがどっこい俺がいた。
俺は近くの草むらに迷彩を施した布を被って彼等を監視していたのである。昼間見れば子供の忍者ごっこのような迷彩だが、こんな夜なら十分すぎるほどに俺を地面に溶け込ませてくれる。
忍者もどきの俺が監視する彼等は某国の窃盗団で東京の各地のお金持ちのお宅を荒らし回り、骨董や美術品などを奪っていた。そうしてある程度集まったということで今晩日本から高飛びをするらしい。
船は十分に外洋航海が可能でこのまま東京湾を出た後、洋上補給を受けてそのまま某国に入国する手筈になっている。日本にとって歴史的にも重要な品もあるが、某国の闇マーケットに流れたら二度と日の目を見ることは無いだろう。
そんなことが許せるか?
残念ながら俺の感性は神威を読み取れるところまで高まっていない。だからこそ数多くの作品に出会い魂を磨き、未熟な俺の魂でも神威を感じさせる運命の作品に出会おうことを夢見ている。
故に俺はどんな美術品だろうと機会があれば会いにいく、なのにその大事な一期一会を奪われるなんて許せるものか。
だから俺は強盗団の情報を探り今日高飛びすることを察知し、そして奪いに来た。
悪党はアウトロー、つまり法の外、つまりこれから行われることは法の外の出来事。
社会も警察も関与しない力だけが摂理の世界。
さててとそろそろか。
俺は背中に背負った小型リュックの紐を締め直しマスクを上げて口元を隠す。
そして愛用のトンファーを左手に握り締め戦闘準備を終えた。
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