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第三話 奇襲
闇夜に目を凝らし俺は男達を観察しタイミングを計る。
男達の息遣い、足運び。
そして水路の流れ。
全てとセッションするようにリズムを合わせ、美しい旋律を紡いでいく。
岸側にいる男が船側にいる男に最後の荷物を手渡し俺は草むらから飛び出した。
身を低くして足音を立てない忍び走り。
服装も特殊カーボンで編み込んだ鎖帷子を着込んだ黒尽くめで闇夜に溶ける。
三つ合わさり強盗団は俺の接近に気付かない。
緊張が弛緩した間から緊張が戻る頃には俺は足を止めない跳び蹴りを盗賊団の背中に叩き込んでいた。
一人。
ドボンと水底に呑まれていく音に場に緊張が戻った。
強盗団もここで声を上げてるようなマヌケではない。岸側に残っていた男は俺に誰何することなく黙って銃を抜こうとするが、それはミスチョイスだ。
この至近距離では銃を抜く動作で俺の左手に握るトンファーが振り抜ける。
俺のトンファーが男の米神にヒットし男は抜いたサイレンサー付きの銃を落としそのまま失神して倒れた。
二人。
男を水路に蹴飛ばし船に乗り込んだ。
残る一人はと見渡せば操舵室にいた。
二人目が粘っていたらそのまま見捨てて逃げるつもりだったか。
速攻で仲間を見捨てようとするとは素晴らしい仲間愛だことで。
俺が操舵室に近付いていくと男は操舵室からバールを振り上げ飛び出してきた。
俺は冷静に間合いを計りカウンターで仕留めようと待ちの体勢を取った時だった。
船が大きく揺れた。
くっ碇を上げたな。
予期せぬ揺れに俺がふらついたその隙を狙って男は間合いを詰めてバールを振り下ろしてきた。
迫るバールの影が視界を埋め尽くす。
キン。トライアングルの如く夜空に金属が弾かれる美しい一音が響く。
バールを横から振り抜いたトンファーで間一髪はたき落とせた。
「たれたお前は? 警察ではないな。とこの組織の者だ」
男が何処か可笑しい日本語で誰何してくるが無視。
折角正体がばれないようにマスクをしているんだ、例え声とはいえ俺に繋がる手掛かりは一切与えない。
この世界報復は恐ろしい。細心の注意でことに挑まなければ長生き出来ない。
トントンとステップを刻んで、乱れたリズムの調律を行う。
良し船の揺れにリズムが合ってきた。
相手の獲物はバール。この揺れる船上でハンドガンなど当てられるものじゃない、持ってないだけかも知れないが敢えてバールを選んだのならそこそこ出来る。
油断は出来ない。
「無視するなっ」
男は無視されたことに怒り再度バールを振り上げ襲い掛かってくる。
螺旋。全ては螺旋の動きに帰結する。
相手がバールを振り下ろすより一瞬早く俺が動く。踏み込みフェイント気味にグンと下方より伸びる後ろ回し蹴り。
振り下ろされるバールを蹴りが迎撃する。
勢いが乗ってないバールなら蹴りで十分押し込める。バールから勢いが失われたのを確認して足を降ろす動作で螺旋の流れで体がくるっと回す。
足、体と伝わる螺旋の力を乗せて手首を返して回転したトンファーが男の顎を砕く。
「俺は個人事業主だよ」
俺は気絶し倒れかかる男の胸倉を掴むとそのまま水路に投げ捨てた。
これで暫くは追って来れないだろ。
さて仕事はまだまだ半分これからだ。
俺は船の操舵室に向かうのであった。
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