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第6話 神威
美術品を盗まれた屋敷を調べ、ネットワークを使い闇の情報を集め。
俺は今船上にいる。
水路に落とした連中は警察に捕まるにしろ逃げ帰るにしろ、今夜のことを闇の世界に吹聴してくれ「登坂保険恐るべし」と噂が拡がり槇村の狙い通りになるだろう。
そうなると俺の飯の種が一つ減ってしまうが仕方が無い。この世に正義が尽きぬことが無いように、この世に悪党が湧かなくなることも無い。
悪党は美を好むなら、俺は幾らでも別の場所で必要とされる。
それに今は先の心配より目の前の仕事だ。
まずは東京湾に出て行方を眩ました後でどこかの港で荷物を降ろし船を隠す。そこまでやってやっとお宝とご対面、隠れ家で心ゆくまで美術品を愛でることになる。
俺にとって至福の時間になるだろう。
その為にもまだまだ気を抜くわけにはいかない。
暫くはゆったりとした直線路、深夜とあって船も航行していない。何があったら急いで戻れば何とかなるだろ。
俺はエンジンを切り船を水路の流れに任せて操舵室から出る。
先程と違い落ち着いて見渡せば、甲板には舫い縄、漁船としての擬装用なのか網などが置かれいる。そして盗賊団の一人が落としたバール、美術品が入った木箱が積み重ねられている。
ちょうどいいか。
俺はバールを拾うと木箱の一つに手を掛けた。
ここまでやって今更かも知れないが中身を確かめないといけない。これでこの木箱の中が金塊だったら少し笑えないことになり、ダミーだったら完全に笑えなくなる。
木箱の蓋を転がっていたバールで開け、中に入っていた箱の蓋を開ける。
この瞬間は何度迎えても初めてブラジャーを外す童貞のようにドキドキする。
勾玉?
日本史の教科書でよく見る勾玉の形をしている。
槇村のクライアントから盗まれたリストには無かったな。別の三件から盗まれた物か。
この勾玉本物か? それとも模造品なのか? それともアート?
まあ俺にはどっちでもいい。本物に神が宿るとは限らないし偽物に神が宿らないとも限らない。
大事なのは神威が感じられるかどうか。
一応の知識として俺は美術の知識を学ぶが、あくまで仕事する上で手助けになればいいと思う程度。芸術と向き合うときには全て捨て去りまっさらな気持ちになる。
考えるより感じろは座右の銘にしたいぜ。
ラテックス手袋をした手で箱から取って月明かりに照らしてみる。
勾玉は楚々と振る注がれる月光を虹色に濾過して闇に輝く万華鏡のようだった。
美しい。
美しさに魅せられ時を奪われた。
確実に言葉で表せない何かを魂で感じた。
明確なメッセージとしては受け取れないが何かを受け取った気がする。
「これが神威なのか?」
悪いがこれは直ぐには持ち主に返せないな。少なくても俺が心ゆくまで溺愛して堪能して、恋が愛に変わるまでは時間がいる。その上で出来れば譲って貰えないか交渉する。所有できなくてもたまにでいいので見せて貰う権利くらいは手に入れたい。
盗んでしまえ。
心の一部が囁くが、盗んだ瞬間に神秘は消えてしまう気がする。
くだらない感傷じゃ無い、磨いた魂が穢れれば神は感じられないだけのこと。
「それをゆっくりと元に戻してくれませんか」
心奪われていた俺が突然の声に振り返ると白い神主が着るような服に身を包んだ少年がいた。
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