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日々
その日から、恵美に隠れて、国重さんにハグをしてもらう日々が始まった。講義がある日や、ない日に関わらず、僕らは必ずどこかで会った。そして彼女は僕を抱きしめてくれた。
一ヶ月が過ぎ、僕は国重さんに一万円札を一枚手渡した。クラブ棟裏の木々が風に揺られ、ざわめいていた。
「何これ?」
風になびく髪を押さえ、国重さんが聞いた。
「今までのお礼だよ」
彼女は険しい表情を浮かべる。「足りない?」と僕は続けた。
「私、そんなつもりない」と拒否しようとする彼女。
僕は何度も頭を下げ、「受け取ってほしい。でないと僕の気持ちが収まらない」と言った。必死に頼み込む僕を見て、「とりあえず、預かっておきます」と彼女は答え、ようやく手を伸ばした。
お札を取ろうと伸びる手の袖から、ビーズでできたブレスレットがのぞいていた。それについて聞くと、「ハンドメイドなの」と彼女は答えた。市販と変わらぬ出来映えだったので、僕は素敵だと誉めた。
「神山くんの誕生日にプレゼントしてもいい?」
「もちろん」
「彼女さん、怒らないかな?」
「友達からの貰い物だよ。怒らないさ」
おそらく、怒る愛情すらなさそうだ。
「今、あげようと思ってるのは、ホースヘアっていう馬の毛を編み込んだブレスレットなんだけど」
彼女はうれしそうに言った。
「あげたら、つけてくれるかな?」
「もちろん」
彼女は微笑んだ。その笑顔は橙色に変わり始めた日の光にさらされ、いっそう輝いて見えた。
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