別離

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別離

 その日の昼だった。大事な話があると言って、恵美は僕を呼び出したのだ。彼女の家に行くと、浮かない表情で僕を部屋に入れてくれた。テーブルを挟んで僕を座らせ、恵美は対面に座った。彼女が言いたいことは何となく分かっていた。  しばらく気まずい沈黙が続く。それを破ったのは彼女だった。「前から、違和感を覚えていた……」と切り出し、意を決したように「もう続けていくのは難しいと思う」と彼女は続けた。 「他に好きな人ができたの?」と聞くと、彼女はゆっくりとうなずいた。二人の思い出が走馬灯のように蘇り、気が付くと僕は涙を一筋流していた。 「泣くくらいなら、なんで……」  彼女は言葉を詰まらせる。その続きはおおよそ見当がつく。何で、彼女を大切にしてあげられなかったんだろう……。 「私の片思いだと、ずっと思ってた」  彼女は笑い、涙目で鼻をすすった。僕は合い鍵をテーブルに置いた。恵美も国重さんも、ずっと僕の心をノックし続けていたのだ。それに気付かなかった僕はバカだった。
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