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消失
翌朝、僕の身体は消えかかっていた。しかし一向に、国重さんは電話に出てくれなかった。大学に行ったが、広いキャンパス内で彼女を見つけることは難しかった。
昼過ぎまで待ったが、連絡はなかった。僕は国重さんの家へと向かった。電車を乗り継ぎ、目的の駅に着く頃には、顔以外のほぼすべてが半透明と化していた。
国重さんの家に到着したものの、窓にはカーテンがかかっていて、中に人がいるのかも分からない。マンションのエントランスでインターホンを押すが、反応はない。マンション前の壁にもたれ、彼女の帰りを待った。
道行く人が僕の顔を見てギョッとした顔を浮かべている。いよいよ顔にまで透明化が及んだのだろう。
居てもたってもいられず、走り出した。心当たりのある駅前や公園を探し回ったが、彼女はいなかった。僕は当たり散らすように、ほどいた包帯を公園のゴミ捨て場に投げ捨てた。
両手は透け、遊具を淡く映し出している。
夕方が近い。二十四時間はとうに過ぎ、三十時間以上が経とうとしている。携帯電話の充電はすでに切れていた。
もう一度彼女の家で張り込むしか術はなくなった。公園を出て、彼女の家へ引き返した。その路中、僕は袖や裾をめくり上げ、全身がほぼ透明になっているのを目にした。シャツを上げても、あるはずの腹がそこにはなかった。
小川に架かる橋の上で、いよいよ死を覚悟しなければいけなかった。すべてを諦めた時、国重さんの声がした。真っ赤な顔で咳をしながら、こちらに向かって走ってくる。
僕も彼女に向かって走り出す。しかし身体が消え去っていく方が早かった。右手が完全に消えた瞬間、僕は立ち止まり、好きだ――と彼女に向かって声を上げた。消えゆく瞬間に残したい言葉は命乞いではなかった。恵美に示すことのできなかった愛を、目一杯叫んでいた。
そのまま僕は崩れ落ち、そのまま消失した。
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