過去からの手紙

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遠い、遠い、昔の出来事だ。 ある瞬間、僕は眠りから目覚めた。そこが、どこだか、全くわからなかった。見渡す限り、一面の砂漠。 (お父さんとお母さんはどこ?) 最初に僕の頭に思い浮かんだのは、その事だった。しかし、お父さんとお母さんどころか、そこには人っ子一人いなかった。 目が覚めたのは、大きめのカプセル型の入れ物だった。 ふと、枕元に目をやると、手紙が置いてあった。 (何だろう?) そう思い、手に取る。 文字を見て、すぐにわかった。お父さんからの手紙だった。 急いで、封を破る。 「ごめんなさい。あなたは2020年に眠りにつきました。たぶん、遠い遠い未来まで、目覚める事はないでしょう。お父さんもお母さんも全力を尽くしたのですが、あなたの眠り病はどうしようもなかったのです。私たちはあなたの事がとても心配です。目覚めたら、何とか生きていけるように、カプセル型の入れ物に全て用意して置きました。それが、役に立つと良いのですが。あなたが目を覚ました世界が、どんなところなのか、私たちには想像もつきません。どうか、たった一人になっても、生き延びて下さい。それが、お父さんとお母さんの唯一の願いです。あなたの幸せを遠い過去から祈っています。いつか、また会える日まで」 2020年?! 一体、いつの時代だろう?お父さんとお母さんは、どこに行ってしまったのか。 僕は混乱していた。 だが、この世界、この砂漠で、僕は生きていかなくては行かないといけないと言う事はわかった、たった一人で。 お父さんとお母さんに会いたかった。しかし、それは、もう二度と無理な事だと悟った。 2020年に思いを馳せる。 家族で東京オリンピックを見るのを楽しみにしていた。 それすらも、もう、遠い思い出なんだ。 僕はお父さんからの手紙を読み返し、この世界で生きるしかないのか、と思った。 これから、どうなるかはわからない。でも、お父さんとお母さんは僕に生き延びて欲しいと、ただ、それだけを願っていた。 もしも、いつか、遠い未来に僕が死んでしまったら、きっと、再び、会えるのだろうか? お父さんとお母さんに、また、一目だけでも、会いたい。その為には、命ある限り、生き延びなくては。 そう、決意してから、もう、どれくらいの時が過ぎたのだろうか? 遠い、遠い、昔の出来事だ。
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