わたしのうんめい

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 目が奪われた。かみさまだと思った。そうでなければ鬼だと。だってあんなに美しい人、ヒトだと思えなかった。  人型のうつくしいもの。見た瞬間に私をどこかへ連れて行った。  ふと、そう、何かが気になってふり返った。そこにその人はいた。いつもの街、いつも通りだと思っていた、その時までは。けれどその人と目が合った瞬間、私とその人だけが違う時間の中に入ってしまったと、思えた。その人との距離は五メートルくらいあったはずだけれど、誰も間を通らなかった。その人はちょっと笑って「みつけた」って。そんなに大きい声でもなかったし周りだって静かなわけじゃなかったのに、はっきり聞こえた気がした。  その日はそれだけだった。だけってことはないかもしれないけど。  いつの間にか家にいた。帰るところだったとはいえ、どうやって帰ってきたのかも全く覚えていない。  次はすぐだった。翌日だったと思う。けれど記憶があいまいで、本当にそうだったかはわからない。ただその人に会ったという事実だけが残っている、そんな感じだ。  「こんにちは、わたしのうんめい」その人はそういった、少なくともそう聞こえた。意味は分からなかったけれど、何故だかすぐに受け入れられた。その人のことなんて何も知らないのに。
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