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瑞香が眠りにつくと、秋月は立ち上がってキッチンに向かう。
「何してんの?」
「お粥作んないと」
「……秋月」
夏月は嬉しそうに、優しげな姉の顔をして。
「ありがと」
「……え、何が。まさかカレーも食べてお粥も食べる気?」
夏月は弟の予想外の反応に目を丸くして、それから実に弟らしいと軽快に笑った。
「…本当に何なの。ちょっと買い物行ってくるから、瑞香さんよろしくね」
「はいはい、瑞香さん、ね。ちゃんと見とくよ」
「ただ見てるだけとか駄目だから。お絞り作ったり、汗拭いたりしてあげてよ」
秋月は普段、人をあまり下の名前で呼ばない。それも今日会ったばかりの人間を自分から名前で呼ぶなんて、とても貴重だ。それだけ彼女が秋月の中で何かに触れたのだろう。
夏月は姉として、普段淡々というか、平穏過ぎるくらいにのらりくらりと物事をこなす弟の新しい一面を見て、もっと引き出したくなった。からかいたくなってしまったのだ。
「あんたがやってあげれば?」
いつもなら、何を言ってるのかと無言で呆れるか、淡々と何でもないように従うかのどちらかだが……。
「ちょ、何馬鹿なこと言ってるの?」
真っ赤に染まった顔が、熱で上気していた瑞香の顔色とお揃いだ。夏月にしてみれば、あの時の瑞香の顔の赤さは果たしてどの熱が上気していたのかな、と二人揃ってからかいたくなる純真さだ。
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