2人が本棚に入れています
本棚に追加
顔をがしっと鷲掴みにされて、容赦なく観察される。
「白くてきめ細かな肌、綺麗な鼻筋、末広がりの二重、薄い唇……モデルの七瀬りんに似てるー!」
対応に困っているというか、突然のことに固まっていると、瑞香の顔を鷲掴みにしている彼女の頭にキッチンから顔を出した弟――佐倉秋月からチョップが御見舞いされた。
「痛ぁ! 秋月、痛いじゃない」
「夏月、いい加減にしときなよ。彼女、見てみ」
兄弟がおらず、一人っ子の生活しか知らない瑞香に取って目の前の姉と弟のやり取りは目まぐるしい。
「あ……ごめんね、市原さん」
「いえ……」
とりあえず、顔は解放された。
「お茶入れるから、座って」
ベッドから這い出て、秋月に言われた通りテーブルに落ち着いた。
まずは改めてお互いの自己紹介をして、分かったことがある。
同級生の彼女――佐倉夏月には3つ下で高校生一年生の弟がいた。その弟、佐倉秋月は男子高校生の傍らモデルをやっている。きっかけは姉の夏月が遊び半分で弟の写真をオーディションに勝手に応募したこと。そのオーディションで見事審査が最終まで通り、成り行きで今も続けている、という。
言われてよく見ると、確かに端正な顔立ちをしているし、少し覇気のない淡々として見える表情も今時の若者には人気がありそうだ。
そして、彼女たちの両親はすでに他界していた。秋月は成り行きで、と言っていたが、モデルの仕事を続けているのも姉を少しでも助けるためとか、自立するためとかだったりするのではないか、とそんな風に瑞香は少し自分に重ねていた。
夏月は大学への進学を機に一人暮らしを始めたが、彼女のズボラな性格と、今まで弟に任せっきりだった家事を一人で全てこなせるはずもないことは秋月にはお見通しで、今日は抜き打ちチェックに来たのだという。
最初のコメントを投稿しよう!