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……そういえば、あの男の警官姿しか見たことないな。
毎日毎日、同じ制服。休みの日もわざわざ制服を着ていたのだろうか?
まああの服を着ていないと『パトロール』だと言い張れなくなるものね。
いつもいつも、気付いたら後ろに立っててさ。一回追い払ったかと思ってもしれっと着いてきて。
もしかしたら今日だってあんなに潔く身を引いたのは演出で本当は着いてきてたり……。
そう思うと、本当にそのような気がして階段の踊り場に出たところで後ろを振り返った。
いや、まさかね……まさか……。
すると……。
「!? なんで課長がここに!?」
なんと驚くべきことに、真後ろには課長がいた。かなり近い距離だったのに、全然気付かなかった。
びっくりした。本当にあの男がいるのかと思った。
「伝え忘れたことでもありましたか?」
「いや、こんな機会またとないと思ってね。見たところあの警官は本当にいないみたいだし」
「え?」
仕事のことで言いたいことでもあるのかと聞いてみたら、返ってきたのはぼそぼそとした課長らしくない小さな声。
最後の方はよく聞き取れなくて、もう一度聞き返す。
「折角こうして“正面から”君の家に来れたんだ。中に入ってもいいだろう?」
「……え? 中にですか?」
中に入ってどうするの? ていうか、“正面から”ってどういうこと?
「わ、私の家なんて何もないですよ? 何故入りたいんです?」
「何故? 近衛は可笑しなことを聞くな。恋人の家に入るのに理由なんていらないだろう?」
「こ、恋人って……それはあの警官を追い払う口実で……」
な、なんだろう。何故だかとてつもなく嫌な予感がする。
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