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なんか、いつもの課長じゃない。話が通じていない気がする。
こんな一方的な喋り方をするような人じゃなかった。
そ、それに“正面から”って……じゃあ今まで私の家に隠れて来てたってこと?
それって……そこまで考えて、信じたくない仮説が一つ思い浮かんだ。
あの警官が上司に言っていたこと、いつまで経ってもやめてくれない『パトロール』、職場内で感じる視線……。
「ま、まさか課長、私のこと付き纏ったことあります……?」
真っ直ぐに目を見るのはなんだか怖くて、課長の口元を見上げた。
すると、さっきまで確かに真一文字だった唇が、徐々に弧を描いて―――
ひ、ひいいいい!!
全身にぶわっと鳥肌が立った。嫌な汗が吹き出る。
急激に身の危険を感じた私は残りの階段を駆け上がり一直線に部屋へと向かった。
鞄の中から鍵を引っ掴みガタガタと震える手で鍵穴に差し込む。
―――カチャリ。
よ、よし開いた! 早く中に……!
「そんなに慌ててどうした? 急に走り出したらびっくりするじゃないか」
ドン!とドアノブを握り締めた私の背後から壁へ手をついた課長。
もう、怖すぎて悲鳴すら出なかった。
「ほら、早くドアを開けて。中に入れてくれるんだろう?」
怖い、怖い、怖い、怖い。
足が震える。振り返れない。
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