エースナンバー

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 みんなで部室を出ると、ちょうど、制服姿の三木先輩と出くわした。今日は、女テニの部室を借りて着替えたみたいだ。「三木さん今日も可愛いやん、一緒に帰ろーよ」と、石原先輩がへらっとした口調で声を掛けた。 「ごめん、友達と待ち合わせしとるの」  顔の前で軽く手を合わせながら、三木先輩が言う。「えー、めっちゃショックぅ」と大袈裟に悲しんでみせる石原先輩に、「ごめん、また今度ね」と三木先輩は悪びれずに笑った。ひらひらと手を振る三木先輩が前を横切ると、せっけんとミカンが混ざったようなにおいがする。「お疲れ様ですッ」と声をそろえる一年たち(俺も一年だけど)の挨拶に合わせて、小さく頭を下げた。 「ほーんと、残念だよなぁ」  石原先輩が、三木先輩の後ろ姿を見つめながら、寂しそうに呟いた。毎日のように好きだとか可愛いだとか言っているのはネタだと思っていたのだけれど、実はガチだったのだろうか。そんなことを思っていると、石原先輩が俺の方を見た。 「まぁ、エースは葉山やけん、戦力的には問題ないけどな」 「はぁ、……どうも」 「相ッ変わらず、クールボーイはクソ生意気やなぁ。お前、入部が一年早かったら俺らの二こ上にリンチされとったぞぉ」  俺より十センチは背の低い石原先輩に、頭を押さえつけるように撫でられる。「痛いんですけど」と抗議すれば、「やっぱ生意気や、このやろ」と石原先輩は豪快に笑いながら、さらに頭を押さえつけてきた。
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