公衆電話ボックス

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学園の隅にひっそりと建っていた公衆電話ボックス。今はもう撤去されて真新しいコンクリートが目立っているが、それもじきに分からなくなってしまうだろう。そんな電話ボックスに一つだけ思い出がある。 あれは中一の春、まだクラスメイトの顔も覚えきれていない頃だったと思う。細かいことは忘れてしまったが、なにかその日のうちに家族に確認しなければならないことがあって、校内で家族と連絡を取ることになった。 学校のルール上携帯電話を使うのはNG。しぶしぶ校内に設置されている公衆電話ボックスに向かった。 幸い、電話ボックスは空だった。特に急ぐ必要はなかったが、他の人に取られると面倒だったのでさっと飛び込んだ。 ボックス内はしん……としており、学校とは別の空間にいるような感じがした。もともと公衆電話はあまり使わない方なので、尚更そう感じるのだろう。 ただ、ずっと雰囲気に呑まれているわけにもいかないので行動する。受話器を取って、テレフォンカードを差し込み、番号を押して待つ。 呼び出し音を聞きながら、よくホラーとかで駆け込んで電話しようとしたら血まみれの女がいた、とかあるよなーなんて、電話ボックスに関する怖い話をいくつか思い出していた時だった。 ――バンバンバンッ! 驚いて振り向くと、セーラー服の子が満面の笑みを顔に張り付け両手で扉を叩いていた。ボックス内で怖い話を思い出したのがいけなかったのか!? 混乱しつつ、彼女を観察する。……その顔には見覚えがあった。 「C組の――さん?」 「そうだよ」 扉越しのせいか、声がこもって聞こえる。彼女は入学早々いろいろとやらかしていたので、目立っている新一年生の一人だった。 「あのさ、悪いんだけど中に入れてくんない? 今、鬼ごっこ中でさ。隠れたいんだよね」 入れていいのか一瞬迷った。それがいけなかったのか、扉を開けたときには既に遅かったようで、彼女は鬼に捕まっていた。 「……やっぱ、いいや。ありがとう!」 彼女はそう明るく言うと、逃げていく仲間を大声で笑いながら追いかけていった。 電話ボックスを叩く彼女の姿があまりにも強烈だったため、その後自分が何をしたかとかはあまりはっきりとは覚えていない。ただ、卒業して数年後、彼女と再会したときにその話を本人にしたのだが、彼女はそのことを一切覚えていなかった。
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