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なないろのウミガメ
すこしはだ寒くなってきた日だった。
わたしは、何かから逃げるように、ただひたすらせわしく歩いていた。
わたしは、ほんとどういうふうに歩いてきたのかわからなかったのだけれど、なぜか無人島にたどり着いてしまった。
(今冷静に考えるととてもおかしな話で、海の上を歩きでもしない限り、その無人島に徒歩でたどり着くことなんて、不可能なんだけれど。)
たどり着いたその無人島は、三十分ほど歩けば一周してしまうほどの小さな島で、よく言われるようなヤシの木が生えた南国風のそれではなく、周りを白い岩におおわれた、不毛の島だ。
そんな白い空間のはしっこで、わたしはただぼう然と海の青、空の青をながめていたのだ。
わたしにとってそれはどこかひと事で、ふわふわとした夢を見ている気分だったんだ。
そうまるで、わたしが一匹の泳げなくなったウミガメになってしまったような夢。
わたしは必須にうまい泳ぎ方を思い出そうとしたけれど、まるでリクガメになってしまったように、きれいさっぱり海の泳ぎ方を忘れてしまった。
(仮に海の泳ぎ方をうまく思い出せたとしても、この大海の荒波を無事に越えることは難しいのだけれど。)
わたしはこうらに首と手足をつっこんで、地面の白い岩に同化した。
夜になると海風が寒く感じるようになり、また急にひとりぼっちのさびしさを覚えるようになった。
あたりはまっくらで、ただただ荒波の激しくこすれ合う音が聴こえてくる。
なにか孤独感をまぎらわすものはないかと、おそるおそるこうらから首をのばすと、夜空に輝く星々が目に入る。
オリオンにカシオペア、北斗七星にあれは、北極星。
あれ、おかしいな。急にお星さまたちが二倍くらいに増えたような気がする。
わたしがそうふと思ったのは、間違いではなかった。
夜の海はいつの間にか、ナギの状態となり、夜空の星々たちを鏡のようにきれいに映し出したのだ。
すると、その海に反射した星の光たちが一カ所に集まりはじめ、ひとつの形になって動きはじめた。
わたしはそのとき、七色に輝くウミガメに出会ったんだ。
よく足元を見てみると、この無人島の岩々も七色に輝きはじめていた。そしてその岩々は、生き生きとしたサンゴしょうに変化したのだ。
わたしはその七色に輝くウミガメとすこし、お話しした。もちろん、わたしはウミガメの言葉なんて理解できないはずだが、不思議と、なんとなく言っていることが理解できた。
どうやら、わたしをもとの場所まで連れて行ってくれるらしい。
わたしはウミガメにただただ、ありがとうとお礼を言うのみだった。
浦島太郎のようにウミガメの背に乗って、わたしがたどり着いた先は、竜宮城ではなく、ちっぽけなわたしの家だった。
わたしは疲れた身体を休めるため、また冷えきった身体を温めるために、すぐに布団へともぐり、首と手足を引っ込めたんだ。
明くる朝、わたしはその夢を、またはほんとうに起こった事実を思い出して、なないろのウミガメへと感謝の言葉を、ぽつりと述べた。
ありがとう。
おしまい
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