ヒトガタの夢は叶った。

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ヒトガタの夢は叶った。

 ごろごろと死体の転がる路地裏で、呼吸をしていたのはアビス様だけだった。私は人の血に塗れて、彼の膝の上に抱かれていた。 「本当に、嬉しかったです。あの日、ガラクタの私を、受け入れてくださって……」  ひとつ言葉を紡ぐたび、体の中の歯車がきしんだ音を立てる。それでも私は、あふれる言葉を伝えずにはいられなかった。 「ありがとう、ございました」 「……僕の方こそだ。カヌレがいなければ、この突破口は開けなかった。取り返しのつかない無茶を、させてしまった……」  絞り出すように「ありがとう」をささやいたアビス様は、私を抱く腕に力を込めた。  血の通わない冷たい肌に、人の体温が心地いい。私は静かに、主の心臓の音を聞いていた。 「私、やっと、お役に立てたのですね……」  製造されて初めて、仕えた主を死なせずに済んだ。遅れてやってきた実感に、心から安堵する。  張りつめていた緊張が、切れた。私の掌からは、武器にしていた銀のナイフが滑り落ち、地面にぶつかってキンと音を立てた。 「可愛いカヌレ……。僕は、あなたを誇りに思うよ」  アビス様は、今にも泣きだしそうな顔をしていた。でも、無理矢理に笑う。 「大好きだ」 「……もったいない、お言葉です」  胸をいっぱいに満たした、温かい何か。これが、幸福なのだと知った。故障していたはずの私の表情は、意識せずとも自然に動いていた。 「私も……心から、お慕いしております。アビス様」  瞠目したアビス様の瞳には、私の満面の笑顔が映っていた。  だが、それが最期だった。 バキン……  太い何かがへし折られるような音がして、私の体は完全に停止した。
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