近藤鷹男(32)フリーターが就職を決意するまで

6/8
前へ
/13ページ
次へ
 アイリ――魔法幼女ラブリる☆アイリ。  本物の幼女。造り物や演技ではない幼女本来の声――それは天使の声。 「はあ」  つい、溜息がもれた。それは諦めと感嘆どちらも保有したものだった。  手の届かぬ存在。だけれど、とても可愛く、尊い。  どこか、ふわふわした気持ちのまま。何故か俺はPCのメモ帳を開き履歴書紛いのものを作成していた。  自分がどういう人間で、どのように悪魔結社サタニアスに貢献できるか。サタニアスに対しての誠意を熱意の全てを込めて書き連ねた。更には、企画案も提示し、表に立つ場合や動画編集技術面でも採用されることを考えて動画作成も行い、限定公開した作品のURLを張り付けた。  こうして、履歴書は3日かけて完成した。  こんなにも真剣に取り組んだのは、もしかしたら初めてかもしれない。それだけアイリの登場が衝撃的で、サタニアスの存在が魅力的であったのだろう。  そして俺は、メモ帳の文章をコピーして――悪魔結社サタニアス【公式】にダイレクトメールで送った。  その後一週間が経過した。返事は無かった。  それはそうだ。他のライバー事務所や企業と違い、サタニアスは今までスタッフ募集やライバー募集を行っていない。俺がやったことは正規の応募ではない。  ただのスパムとして処理されているのだろうか。あれだけ人気なのだから、毎日スパムの様なダイレクトメールは送られているはず、そこに埋もれてしまうのも頷ける。  けれど、俺は諦めなかった。俺にはサタニアスしかなかった。サタニアスに貢献したいと心の底から思う。視聴するのもサタニアスへの貢献? 違う、そうじゃあない。俺が俺自身が悪魔結社サタニアスでありたいと願っている。  今度は2日で履歴書を作成した。勿論、前に作成した物のコピーではなく、中には同じような内容もあっただろうけれど、一文字一文字新たに打ち込んだ。真剣さを伝えたかったから。そしてまた、ダイレクトメールで送る。  その4日後――。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加