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とっぷり、波に飲まれ水の底へ沈んでいく感覚に、ももは目を覚ました。
はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返し、ベッドサイドのランプを点ける。もとより置かれていた卓上時計は、朝とも夜とも言いがたい曖昧な時間を指し示していた。
「まだ、四時……」
起きるまでにはかなりの時間がある。カーテンの隙間から覗く空もまだ暗い。
何度も息を吸って、吐いて、ももは肺の狭まりに夜着のガウンをぎゅうと抱きこむ。
「さい、あく……」
まさに、双方の肺が水で満たされたような息苦しさであった。心臓がドクドクと激しく鳴り響いている。やがて呼吸を取り戻しても、それだけは治ることはない。
パリのアパルトマンは、静けさに包まれていた。車のエンジン音や、パトカーのサイレンも聞こえない。夜明け前にやっと街が眠りについたらしい。
「さむ……」
その静けさが、朝の冷え込みをいっそう強くする。秋の声はもうすでに、彼女の耳の裏を撫でていた。
「もう少し眠れるかしら」
布団に潜り込んで、空っぽのお腹に触れる。夜着越しに、冷たさが伝播して体が震えた。
ももは必死に太陽を思い浮かべながら、まぶたを閉じた。
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