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「あなたに、絵を描いてほしいの」
唇は乾き、指先の震えは治らない。だが、いつしか抱いていた強い渇望を、口にするのはいとも容易いことだった。
ほろりと零れた言葉に、シモンの動きは止まる。それは、ほんの一瞬のことだった。
「いくらで?」
シモンは変わらず絵を描き続ける。静かなセーヌの水面に、光を、影を、次々と滲ませていく。
「いくらでも出すわ」
彼の手元を一心に見つめたまま、ももは矢継ぎ早に続けた。
「どんな?」
ザッ、ザッ、と短く、均一な音が続く。喉はひどく、カラカラだ。
ごくり、ももが唾を飲み下す。
「……わたしを」
すべての音が止んだ。
「わたしを、あなたの絵の中に、閉じ込めてほしい」
静寂に包まれた世界、ももは断罪を請う咎人だった。ただひたすらシモンの筆先を見つめるまなざしは、ほとんど神に縋るそれに近い。
頬は青白く、唇は真っ赤に染まっている……。
カタン、小さく音が鳴り、ももはやおら視線を擡げた。
筆を置き、咥えていた煙草を灰皿へと押し付けたシモンの瞳が、肌を貪る高貴な獅子のまなざしが、ももを捕らえた。
「来い」
腕を掴む大きな手のひらは、火傷しそうなほどの熱さだった。
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