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第八話* 過激な描写有
リネンのカーテンから光が差し込んでいる。窓際の白いシーツの皺を映し出すほどの、そこが寝室だとわかるには充分な淡い光だ。
静閑とした森に踏み込んだかのようだった。ひんやりとした空気が肌を包む。ただ、腕に伝わる生々しい温度だけは、これから起こることをあたかも知っているかのごとく、とくりとくりと心臓を迫りたてた。
きっとその森には神獣が潜んでいて、今まさにかの聖なる存在に生贄を捧げる儀式が行われようとしている。罪を犯し、その贖罪を求めてその身を捧げる者と、それを受け入れる者。大きな石座の上に、やがてももは体を横たえることだろう。
バタン、扉を閉じる音がして、ももは小さく体を揺らした。首をゆっくりと擡げると、暗闇の中で、緑褐色の瞳がももを射抜く。
刹那、大きな影が彼女に覆い被さった。
唇に触れる、ザラついた、感触。
突然のことに、ももは驚かなかった。それどころか、彼女はシモンの口づけを受け入れていた。
ねっとりと、唇を熱い舌でなぞられる。唇のあわいを、ぷっくりと膨らんだ中央を、そして、すべてを。なぞっては、包み、包んでは、なぞり。まるで、彼女のそれがどんな形をしているのかを確かめているかのようだった。
「ムッシュー」
ああ、なんてことだろう。
頭がジンとする。
喉の奥が、胸が、じくじくと疼く。
その繊細さに、熱っぽさに、潤んだ吐息が漏れてしまう。
自分を見下ろす瞳は自然と伏せた形になり、憂いを帯びた男の色気を滲ませている。それすらも、今のももには甘い毒だった。
シモンはなにも言わない。それどころか、彼女の唇が開かれるのを待っていましたとばかりに、舌をねじ込んできた。
後ろに仰け反る肩をやさしく掴まれ、逃げ場をなくしてしまう。
どうして? ももは、噛み付くようなキスを受け入れながら思う。
——なぜ、彼は、こんなことを?
だが、同時に思う。シモンのまなざしに、あの指先に、いつしかすべて奪われてしまいたいと思っていたのは、自分ではないか、と。
ハイネックのリブニット越しに伝わるシモンの熱が、その大きな手のひらが、眠っていた細胞を呼び起こす。
「っ……は……」
厚い舌が口内を蹂躙する。手のひらが肩から滑り落ち、腕を模り、彼女の女性的な腰のラインをその手で描いていく。
背すじが痺れて、もはや自分の体ではないようだった。腹の底がじくじくと熟し、頭がくらくらする——すべて、溶けてしまいそうだ。
「ムッシュー、ロンベール」
わずかに唇が離れ、彼女は彼を呼んだ。熱い吐息が混じり合う。
シモンの美しい瞳が、ももを見下ろしていた。黄みがかった榛のあの瞳には、今はまるで静かに獲物を狙う獰猛な獣のように、深い赤色が滲んでいる。
ああ、これで、終わりではない。
「やめるなら今だ」
だが、シモンは言う。冷静な口ぶりで、ももの呼吸を食らいながら。彼の吐息が頬を掠めて、ももはふるりとかぶりを振った。ほぼ、無意識だった。
シモンの瞳が微かに鋭く細められる。その仕草さえもまるでひとつのギリシア彫刻のようで、目の奥がジンと震えた。
「きれい」
それが、合図だった。うっとりと吐息をこぼしたももの唇に、シモンは勢いよくかぶりついた。
「っ……ぁ……はぁ……」
先ほどよりも激しい口づけにももは喘ぐ。
シモンの手のひらが肌を弄って、セーター越しに、ゆっくり、ねっとりと愛撫する。暗闇に紛れてしまいそうな彩度の低い紫色に、シモンの浅く日に焼けた肌色はとてもよく映えた。
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